- ナノ -

土岐蓬生×榊大地

鼻の先に当たる無機物の感触が不快だった。加えて度を通すことで表情をしっかりと捉えられることも本意じゃない。離れた後に瞳を細めて嫌みったらしく笑う癖は何度言ったところでなおることはないだろう。
「目付きすごいで、榊君」
「…君の気のせいだろう」
「そう、ほな気のせいかもな」
唇が触れ合ったままの会話はどうにも苦手だった。だからと言って顔を覗き込まれながら問いかけられるのもたまったものじゃない。半ば無意識で伸ばした手は思いの外障害にも当たることはなくあっさりと受け入れられたことに驚いた。
「これで、見えないだろう?」
「まあそないなことにしといたるよ、榊君は眼鏡したままのキスやとお気に召さへんみたいやし」

黙れと言う代わりに塞いだ唇は冷たい無機物の感触に遮られることはなく重なったことが嬉しいなんて、俺も大概どうかしている。