- ナノ -

寿嶺二×黒崎蘭丸

「お兄さん落としたよ!」
彼が背を向けて去る間際、お尻のポケットから覗く軍手を素早く抜き取ってわざとらしく声をかける。訝しげに後ろを振り返るお兄さんは首を傾げながらもぼくが差し出す軍手を取ろうと腕を伸ばした。適度に引き締まった、筋肉の浮き出た二の腕の、半袖からちらりと覗く日焼けあと。それが妙に色っぽく思えて思わず喉が鳴る。
「すんません」
被っていた帽子を脱いで軽く会釈した彼の髪は銀髪だった。これでよく入社できたなあ、とか考えもしたけれど無駄なそれを放り投げて彼の姿を見つめてみる。見れば、目の色が、左右非対称だった。綺麗だな、食べたいな。すとんと落ちてきたその欲求に任せて伸ばされた彼の腕をおもいきり引いてみれば意図も簡単に態勢を崩して倒れ込んできた。腰に巻き付いたウエストポーチからはじゃらり、と小銭が踊る音。それが彼の心境を表しているようで何だか少し面白い。ああ、ほら、またぼくの悪い癖だ。
「お兄さん、少し遊んでってよ」
強く腕を引いて、部屋に半ば無理矢理に誘い込めばこっちのもの。だってね、楽しい時間はまだ、始まったばかり。