夢を見させて(crpt)
※悲恋
※ワットソンと付き合ってる前提
APEXゲームには様々な背景を持っているレジェンズ達が参加している。故郷の星を守るため、家族を守るため、父親を殺され、復讐をするためなど。
あたしはそんな背景を一切なくて、テレビでAPEXゲームを観戦していたことをきっかけに興味を持ち、地区大会で優勝し続けてようやく公式の大会に招待してもらえたただのラッキーな女だ。
賞金もいいし、ゲーム自体も爽快感があり楽しくやらせてもらってる。ファンも最近増えてきて毎日楽しいはずだった。
けれどあたしは恋をしてしまった。それは叶わない恋であり、身近な存在の叶わない恋がどれほど辛いか深く思い知った。
「近くに敵はいないみたいだな」
ストームポイントのバロメーターに降り立ち、周りの敵を全て倒し、あたしはほっと一息をついて回復とシールドリチャージをしていた。
その間クリプト先輩はドローンを使って周りを見渡してくれていた。
「お前がいてくれて助かったよ。まだ新人って言っていい立ち位置なのにすごいな」
ずるい。褒めないでよ、あたしの気持ちも知らないくせに…!
あたしはクリプト先輩の事が好きだ。
初めてAPEXの公式大会でチームを組んだのも先輩だった。テレビで見てる時から無愛想で怖いイメージがあったのだが、組んでみると優しく、丁寧にアドバイスをしてくれた。いつも新人のあたしを気にかけてくれて試合後に射撃練習場に付き合ってくれたり、あたしのチームがチャンピオンになると褒めてくれた。
2人でウィットさんのバーで飲んだ時もあった。それなのに…
「テジュ…クリプト、××、ナイスだったわ!」
「ワットソン!呼び方は気をつけてくれよ」
あたしは後ろを向いてデスボックスを大音量で漁ってる振りをして誤魔化した。全部聞こえていたけど、お似合いな2人のためにね。涙を堪えながらお気に入りのR99を手にし、玉をセットした。
ワットソンはレジェンドの中でも1番美人といっても過言ではない。綺麗な金髪にブルーの瞳、健康的な若い体。生まれた環境も良く知識豊富な天は二物をも与えた女性だ。嗚呼、あたしも彼女のようになれたらな、と心から願ってしまう。
あたしだって特別醜いという訳では無いけれど彼女のような美貌が欲しい、クリプト先輩の興味が引ける機械操作もできるようになりたい。今はそんなこと考えてる場合じゃないのに劣等感でぐちゃぐちゃになってしまう。
結果、惜しくも2位だった。こんな酷い感情が渦巻いてる中でよくやれたと自分を褒めてあげたいよ。
見慣れた搬送先のベッドから身を起こし、スマートフォンを確認するとワットソンからメッセージが届いていて、クリプトも混ぜて試合の反省会をしないかという旨だった。申し訳ないけど体調を理由に断るメッセージを送り、サイドテーブルにあった水を飲んでいた。
「〇〇、ちょっといい?」
「アジャイ、どうかした?」
レジェンドの中でも特別仲がいいアジャイが来てくれたのは嬉しかった。彼女とオクタンとチームを組んで戦っていた時は楽しかったなぁ。
「アジャイ、チャンピョンおめでとう。やっぱりアジャイはすごいよ」
「ありがとう。〇〇、あのさ…最近体調悪かったりする?それか、何かあった?」
「なんでそう思うの?」
「だって今日だって絶対前のちえなら今日の試合勝ててた。動きだってなんか遅いような気がするしエイムも外しまくりだったから…」
あたし、やばいとこまでいってるんだな…。なんだか情けなくて消えたかった。アジャイは困ってる事なら助けになりたいとあたしの手をぎゅっと掴んだ。でも誰にも打ち明けたくなかった。
「実は最近寝れなくて困ってるんだ。アジャイ、睡眠薬がほしい」
心配させたくなくて無理やり笑顔を作った。少しだけ、夢の世界にいきたいな