灰かぶりの夢(傭兵)

年内最後の日の事。この荘園では新しい年を迎える時はダンスパーティーを開催し、楽しく迎える。〇〇はナイチンゲールとマリーにドレスを着付けてもらっていた。薄ピンクのつるつるとした綺麗なドレスで腰から下はチュールが何層も重なっていてふわりとまるで夢がたくさん詰まっているみたいだ。足はなんと憧れのガラスの靴で〇〇の小さな足を麗しく包んだ。

「とっても綺麗ね〇〇!」

「えへへ…そうかなぁ?」

「とても似合っているぞ〇〇。お姫様みたいだな!」

くるくると上機嫌にターンするとドレスがふわっと膨らみくらげのようになった。それがおもしろくて何度も何度もすると「お姫様はそんなはしゃがないわよ」とマリーに肩に手を置かれ注意される。そして優しく髪を梳かし花の髪飾りを丁寧につけてもらった。

「さ、完成したわ。いってらっしゃい、お姫様!」

「女王様!ナイチンゲールさん!ありがとう〜」

感謝の数だけ手を振り階段を降りる。もうみんな大広間に集まってるらしくエントランスホールの階段にはカツ、カツと〇〇のヒールの音だけが響いた。さっきのお姫様みたいと言われた言葉を思い出し嬉しさで胸がきゅっとなり嗚呼早く恋焦がれている人にこの姿を見せたいとドキドキされた。やはり〇〇は来るのが最後だったらしくみんな着飾って居る姿でワインを飲みながら話す、或いは2人1組で優雅に踊っていた。〇〇の好きな人…傭兵であるナワーブ・サベダーはどこかとキョロキョロと見渡した。

「あっナワ…!」

やっと見つけた彼の姿に〇〇は唖然した。普段の彼なら絶対にしない正当なスーツスタイルで、彼のしなやかな体にフィットしていた。だが、どこからどう見ても素敵な彼が空軍であるマーサ・べハムフィールと手を取り踊っていたのだ。端正なマーサの綺麗な顔が今日はより化粧を丁寧に施し誰が見ても見とれてしまうほど美しく、まさに天井のシャンデリアはまるで2人だけを賛美して照らしているようであった。

「お、〇〇…!」

「あら〇〇ずいぶん遅かったじゃない!」

2人は動きを止めてこちらを見る。蚊の鳴くような情けない声で返事をし、マーサが何かを言いかけたところで〇〇は適当に理由をつけその場から去った。あんな所に相応しくないし、何よりも2人の交流を邪魔してしまったのが恥ずかしい、お姫様でもないのに王子様を期待した自分が悪いのだ。彼のすました顔の瞳にはあたしの姿は映らないのが悔しい。
階段を急いで駆け上がり部屋に向かう。途中で靴が脱げてしまいどこに落としてしまったが今はどうでもよくただただ1人になりたかった。
薄暗い部屋に戻り鏡を見ると涙でアイメイクが落ちていて惨めな顔になっている。直すような気力もないしもう今日はあの場に戻りたくないから気にせずにいた。[NN:〇〇]は部屋にある小さなクローゼットに篭った。真っ暗なそこは誰の声も聞かないしこの姿も誰にも見られないのでまるで異空間のようだった。もうずっとこのままでいい…

「おい、〇〇!いる?」

ドンドンドン!と不器用に大きな音でドアを叩きながら〇〇を呼ぶ声が聞こえた。その音にハッとしてクローゼットを出てしまう。恐る恐るドアを開けると先程の正装をした彼が立っていた。

「…なに?」

「さっきの様子がおかしかったからさ。…やっぱりなんかあったみたいだな」

「あっ、いやなんでもないの本当に…」

そう言うとナワーブのゴツゴツしてカサついた手が〇〇の頬に触れ、親指でそっと目尻に触れる。涙で化粧が剥げてドロドロになっているのを見て気づいたのだろう。「じゃあこれはなんだよ」とナワーブは真剣に〇〇を見つめる。だがしかしこれは彼に対するとても打ち明けにくい問題であり、それに応えることはできなかった。 そして笑顔の仮面を被り思ってもないことを言った。

「ナワーブには関係ないことだから。大丈夫だよ。それにマーサの事待たせてるんじゃない?早く行ってあげなよ」

「…は?なんだよそれ。俺はさ」



「お前と踊りたいんだ。お姫様」



そう言って跪き、手にそっとくちづけを落とす。そして右足に先程履いていたガラスの靴を履かせた。〇〇用に注文した物で当たり前にピッタリサイズであったがまるで童話のシンデレラを思い立たせるような雰囲気があった。アイメイクを簡易的に直し終わるとナワーブが絶対に離すまいと力強くお姫様抱っこをし大広間まで運んでくれた。

「ねぇ、なんであたしと踊りたかったのにマーサと踊ってたの?」

「社交ダンスに自信がなくてさ。だから〇〇が来るまで教えて貰ってた。なんか、勘違いさせてしまって悪いな」

〇〇はナワーブの頬にキスをそっとした。これは赦すとゆう意味であった。2人の夜はまだまだ始まったばかり。




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テーマ「人外ファンタジー」
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