朽ちない椿(傭兵/猟犬)
髪を整えて服を着ると街へ出る。夜の街は道端で飲みすぎて倒れている人や女にナンパを仕掛ける下品な人間でいっぱいだ。そんな人間を無視して目的の場所にたどり着く。
「あぁ!これは銀鎌組の!いつもお世話になっております」
「...あの子いるか?」
「はい!少々お待ちを!」
いつもの部屋に移動すると彼女はベッドに行儀よく座り待っていた。着古したドレスはもう色あせてボロボロだが彼女はとても高貴に見えた。ハウンドの姿を確認するとパッと顔が明るくなるのがわかる。
「ハウンド様!来てくれたのですね」
「久しぶりだ。〇〇、会いたかったよ」
一週間ぶりに来たが部屋は相変わらずボロく、変わらない。見慣れた部屋の見慣れたベッドに座る。動く度ギシギシと音を立てるのが気に食わない。久しぶりに〇〇の綺麗な姿を見ると我慢できず思わず頬を撫でる。ハウンドの熱を持った視線にやられた〇〇は猫みたいにすりすりしてしまい、キスをねだる。断るなんてできず、赤く紅が引かれた唇に触れるだけのキスをいっぱいすると、もう我慢できずに押し倒してしまう。でも途中でハッとなりハウンドは起き上がる。
「ハウンド様...?」
「あぁ、いけない。久しぶりに会ったから本来の目的を忘れるところだった」
目的?と〇〇はぽかーんとした。ハウンドはちょっと焦りながら持ってきたカバンの中を漁りお目当ての物を持って自信満々に掲げる。その物を見て〇〇は目を丸くした。
「〇〇、俺の嫁になってくれ」
そう言うと黒いリングケースを開け、大きなダイヤモンドがついた華美な、金持ちが持ってそうな指輪を〇〇の左手の薬指にはめようとする。勿論これは今日のターゲットから盗んだ物だ。絶対喜んでもらえると思ったハウンドだったがそれとは逆に〇〇は拒んで手を引いた。
「ハウンド様、ごめんなさい。私は貴方の物になれないのです...」
「なんでだよ。お前だってこんな生活嫌だろ?俺だったらお前にこんな傷つけない。絶対幸せにしてやるよ」
〇〇は客からの暴力で体中紫の花が咲いていた。このボロボロのドレスだって綺麗な物に変えてやるのに。会ったばかりのころ、一度ドレスを買ってあげたのだが店長に目をつけられ、これはお金になると売り飛ばされてしまったことがあった。俺の嫁になればそんな悲しい思いしなくて済む、ハウンドは絶対に〇〇を幸せにしたいと胸に誓った。
「なぁ、なんでだよ。何か理由でもあるのか?お前のためならなんでもするから...」
「ハウンド様、愛しています。でも私はあなたといれない。ここに一生いなければならないのです。ごめんなさい」
チッと舌打ちをし、ハウンドは痺れを切らしてリングケースを鞄に仕舞い部屋をでる。そして受付にいる店長の襟元を乱暴に掴んだ。
「おい、〇〇を俺だけの物にさせろ」
「いくら銀鎌組の貴方のお願いでもそれはできません。あの子はこの店の一番人気だし、それに多額の借金がありますからね」
「...いくらだ」
「100万ドルですね」
ハッと渇いた笑いがこぼれる。ハウンドは鞄から麻袋を出し受付の机にボンッと重たい音を立てて雑に置く。確認しろと言うように中身を開かせると札束がこんまり入っており、店長は目をチカチカさせた。そして金額を数えさせる。
「ひゃ、100万ドル...。」
「こんなん予想済なんだよ。じゃ、あの子もらっててもいいか?まぁ拒否した場合アンタを殺すけど」
返事も聞く必要ないと思い〇〇の部屋に向かう。扉の向こうからは微かな嗚咽が聞こえる。コンコン、と一応ノックして入ると俺の嫁になるが〇〇縮こまって泣いていた。綺麗な涙を流した顔でこちらを見る。ハウンドはにっこり笑って抱きしめてやり、もう大丈夫だ、と耳元で呟きハウンドの上着を着せ愛しいもうじき自分の嫁になるの〇〇体を持ち上げる。
「は、ハウンド様?なにをするんですか!?」
「もうお前は自由だ!ここを出るぞ!」
「えっ、それって...嘘...」
〇〇は理解が追い付かなかった。あんな大金一気に払えるはずがない。裏の仕事をしているハウンドでも無理がある、と考えていた。
汚い通りを抜け少し街から外れた小奇麗な小さな家にたどり着き、やっと降ろされる。聞きたいことがいっぱいな○○の口をハウンドは塞ぐようにキスをし、そして跪き、リングケースを開ける。
「〇〇、お前を縛っていた物は全部なくなった。これからは俺の嫁として生きてくれるか?」
「はい。私、ハウンド様をお慕い申しております。これからはハウンド様のお嫁さんになります...」
「愛してる」
そう告げてふたりは幸せなキスをし、永遠を誓った。