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[13]舎弟の日常?
by 姫咲薫
2011/03/05 17:51
・「お姉ちゃんは姐御さま」設定意識
・優乃ちゃんが従えてるヤクザにうちの子も入ってる設定(笑)


相も変わらず、都心の町は大勢の人々で賑わっている。
聞こえてくる活気溢れる声を聞きながら、鷲尾・蓮見・柳の三人は、人気のない裏通りを選んで歩く。
ぱっと見、どこにでもいる好青年にしか見えない鷲尾の後ろに極道者である二人が着いて歩くのはどこか奇妙な光景でもあったが、三人にとってはこれが日常なので仕方ない。
ここ数日は久々のオフであり、特に予定もなかった為、三人は夜通し柳の母が経営するホストクラブでこちらも久々の馬鹿騒ぎをしてきたところであった。
そんな中、彼らは近頃、不穏な噂を耳にしていた。
極道者よりも強く、それらを従えるほどの人物がいる、と。
「なんかさー、あの人って鷲尾さんみたいじゃね?ギャハハッ」
「あはは。確かにな」
酒が入っているせいだろう、何がツボなのかわからないが腹を抱えて豪快に笑う柳。
それを人の良い笑みを浮かべて聞いている鷲尾。
仲の良い兄弟のような二人を眺め、蓮見はこれみよがしにため息を吐く。
学生時代、不良グループに絡まれていた鷲尾を助けたばっかりに、鷲尾は蓮見に憧れた。そして、成長した鷲尾は蓮見の実家、広域指定暴力団である龍真組の門を叩いた。
それだけなら調子に乗った男の話で済むが、幼い頃から剣道で心身共に鍛えてきた蓮見、様々な柔術を得意とする武闘派の柳さえ、鷲尾はその拳一つで捩伏せたのだ。
敵にならなかっただけ良かったというものだ。そうでも思わなければ面子も何もない。
蓮見と柳が着き従うこの鷲尾玲仁という男は、正に水面下で広がりつつある噂の主と同じように、危険人物であることに変わりはなかった。
路地の突き当たりに差し掛かると、何やら口論をする声が聞こえた。
数人の男と、それを威嚇しているような、女の低めの声。
「あいつら…ヤクザか?」
足を止めた鷲尾が呟いて、柳も鷲尾の脇からひょっこりと顔を出す。
女の方はよく見えなかったものの、男の方は柳にとって見知った顔だった。
「あの代紋…うわ、何やってんだあいつら…。オレしーらねっ」
素知らぬ顔で踵を返そうとした柳の首ねっこを、鷲尾が片手で捕まえる。
「うわわすいませんって!ウチのモンですいません!!」
柳が慌てて謝罪の言葉を口にする。
柳は龍真組の直参団体、黒虎組で三下修行中の組員だ。しかしながらそこで若頭の地位に立つ父を持っている彼の地位もまた、組織では高い方だと言える。
何せ組織のトップ、四代目組長の実子である蓮見と対等な態度でいられる数少ない人物なのだから。
柳が見たのは、黒虎組系の下っ端構成員。正に自分の部下とも言っていい男達だった。
「…部下の不始末は上司の責任、だよな?」
あっけらかんとした表情で、鷲尾は後ろで煙草を吹かしていた蓮見を見やる。
「はいはい、わかってますよ」
吸いかけの煙草を携帯灰皿に押し込み、蓮見が出て行こうとした、その瞬間。
「ぶべらっ!!」
あ、飛んだ。
飛んで、やがる…。
え?っていうか、何この状況?
各々がそんな感想を持つほどに、ヤクザの一人がふわりと宙を飛び、そして地面にたたき付けられた。
絶句。
女の方が繰り出したアッパーが男の顎を完璧に捉えていた為に起こったものだと思考が追い付いてきた時には、周りのヤクザも迷わず女の方に殴り掛かかって行った。
だが彼女はそれを難無くかわし、ヤクザの顔面へ思い切り拳をめり込ませる。
背後から襲い掛かろうと目論んだヤクザには、冷静な蹴り上げが股間にクリーンヒットしていた。考えただけで痛そうだ。
悶絶するヤクザ達を見下ろし、彼女は一仕事終えたように手でスカートの砂埃を払う。
そうして周りに視線をやり…鷲尾と目が合った。
「あ、玲仁…?」
「優乃さん、どうも」
…優乃。一見普通の女子高生であるが、何を隠そう例の噂の張本人だ。先ほどの強さも妥当だろう。
そして、その優乃が従えているという極道者には、蓮見らも入っていたりする。
今回も凄かったですね、と拍手しながら近寄って行く鷲尾に、優乃は照れたように俯く。
「ホンットにすいません姐御!こいつらまだ新入りの馬鹿共でして…何ボサッとしてんだ!あぁ!?テメェらもさっさと謝れやボケがっ!!」
柳は地面に伏したヤクザの一人に跨がり、両手でシャツの襟を掴むと、今にも首がもげてしまうのではないかというほど上体を揺らしている。
「いや、私は大丈夫だから…えっと…恭一、あれ、もしかしてお前の所のだったか?」
「は、はぁ…柳の言う通り新人らしいんですが…下の者の教育が甘いことを痛感しました。俺からも詫びさせて下さい」
そう言って、蓮見は深々と頭を下げる。
スキンヘッドにサングラス、それから高価そうなスーツという見るからにそれらしい長身の男が、女子高生相手に腰の低い態度というのもなんともシュールな絵面だが、優乃の実力がそうさせているのだ。
「おや」
物陰から小走りで駆け寄ってくる少年に気付いた鷲尾が、そちらへ顔を向ける。
「も、もう終わった?優乃姉かっこよかったー!」
「あっ、大樹…大丈夫か?怪我はないか?」
「うん、だって優乃姉が守ってくれただろ!…あれ、玲仁?うわっ、皆揃ってどうしたんだよ、すごい奇遇だな!」
嬉々とした声を上げたのは、優乃の小学生の弟、大樹だ。
鷲尾は身を屈めてその柔らかい髪を撫でながら、優乃を見上げる。
「守ってくれた…って、優乃さん、大樹くんに何かあったんですか?」
「ああ、まあ…大樹も悪いと言えば悪いんだが、あいつらとぶつかってな。そうしたら、あいつらが絡んできて…」
「…ふぅん。相手はこんなに無邪気な子供なのに、ですか…」
わざとらしく「無邪気な子供なのに」の部分を大きめの声量で言った鷲尾の呟きは、当然ながら興奮状態である柳の耳にも入る。
「ん、だ、と、コルァアアアッ!!黒虎のっ…いや龍真組の看板に泥塗りやがって!!テメェら全員ぶっ殺す!!」
「おいやめとけ、ホントに死にそうだぞ」
柳に揺らされすぎて血の気が引いてきた部下を眺め、蓮見が呆れたように宙を仰ぐ。
「…ちょっと、やり過ぎじゃないか?確かにあいつらにはムカついたが、私はもう憂さは晴らしたからな。大樹も無事だったんだ、もう良いだろ」
「そうですか…大樹くんはどうかな?」
「んー…オレも優乃姉のかっこいいとこ見られたし、もう大丈夫だぜ。なんかあの人達、可哀相になってきた…」
哀れみの視線を送る二人。鷲尾は柳に許してやれという意味の手振りをする。
「あぁ!?…あ、はい、わかりましたすんません…姐御と鷲尾さんのご命令っすもんね…」
まだ物足りなさそうに、渋々と柳は離れて行く。
「お前、そいつら責任持って連れて帰れよ」
苦笑混じりの蓮見の台詞に、柳はああもうと頭を掻きながら指示に従った。
「姐御!この詫びはオレからもきっちりさせてもらいますんで、今度ウチのクラブ来て下さいよ?絶対ですからね!」
それだけ吐き捨てて、柳は倒れていたヤクザを無理矢理叩き起こして去って行く。
「あいつの店…興味ないな。それに私、まだ未成年なんだが…」
「なぁなぁ、ホストクラブ?ってどんなとこなんだ?テレビで見たけど、なんか賑やかで楽しそうだったぞ!」
「そうだな…大樹くんも、大人になったら雇ってもらえるかもね」
「大樹まで妙なことに巻き込むなよ!?」
未知である夜の世界に目をキラキラと輝かせる大樹。
人によっては天使にも悪魔にも見える笑みを湛える鷲尾。
大切な弟を危険な目に遭わさぬようにと警戒する優乃。
(…平和だな)
目の前で再び始まった口論に一種の幸せを感じつつ、蓮見は新たな煙草に火を点けた。

「あっ?おい恭一!子供の前で喫煙禁止だぞ!というか私も肺が悪くなったらどうしてくれる!!」
「…す、すいません姐御…」


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