ピーッと甲高くホイッスルが鳴り響き、試合が止まる。スコアは梟谷優勢でこちらの状況は良くない。ぞろぞろとベンチに戻ってスポーツドリンクで喉を潤しながら何気なく相手ベンチに視線をやると、冷静沈着なセッターがジッと一点を見つめていた。興味本位で視線の先を辿ると、最近一緒に練習するようになった月島と烏野の一年マネージャーの姿。山本が騒いでいた潔子ちゃんやもう一人の一年マネージャーに比べて平凡という言葉が良く似合う彼女は月島とじゃれ合っている。月島はドリンクボトルを高々と掲げ、マネージャーはそれを奪い取ろうと月島に飛びつくような形になりながら必死に跳ねていて相当仲が良さそうだ。山本が気づけば羨ましいと叫びそうなそんな状況を相手校のセッターである赤葦は瞬きも忘れたかのように見つめていた。月島が楽しそうに笑い、それを見たマネージャーが悔しさを顕にして月島に抗議をする。もしかしたら、と思わなくもないやりとりに赤葦の顔がほんのわずかに顰められたがそれもすぐにひっこめられた。

「クロ、ニヤニヤしてキモい」
「いやぁ〜、いいモン見ちゃったから仕方ないよネ」
「なにそれ…」

 月島と仲が良い女子というだけで興味をそそられるのに、更には赤葦が気になっている女子ともなれば興味は倍増するというもの。まずは名前からかな、とコートに戻って構えながら笑みを深めれば、隣に立つ幼馴染が眉間の皺をさらに深くした。







 結局梟谷との試合は惜敗し、うだる暑さの中ペナルティをこなした。唯一マネージャーのいない音駒はどんなにぐったりしていてもドリンクは各自で取りに行かねばならない。たまには女子に労われながらボトルを渡されたいものだと考えながら、烏野の集まる場所へ視線を向ける。お目当ての彼女はノートを抱えたまま、一点を見つめて立ち止まっている。

「苗字さーん!」
「っ、はーい!」

 日向に呼ばれてビクリと肩を揺らすと名残惜しそうに視線を外し、自嘲的な笑みを浮かべてからマネージャーは立ち去った。彼女の視線の先には勝利してご機嫌な木兎に肩を組まれて迷惑そうにしている赤葦がいた。「なんだ、お前たち同じじゃないか」と気づいてしまえば興味は深まる。
 すぐにでも赤葦を揶揄ってしまいたい衝動に駆られるが、本人が気づいていないことを教えてしまうのも面白くない。気づいてしまえば、二人は実にわかりやすかった。何故その視線が絡まないのか不思議なほどにお互いを見つめ、焦がれているのだ。
バレーをするために集まっていると言えども、健全な高校生。恋の一つや二つをちょっとは期待してしまう。多分、赤葦は気づきさえすればすぐに二人はくっつくのだろうと思っていた。赤葦のことだから卒なく彼女と仲良くなり、あっという間に告白してしまうのだろうなんて少しの嫉妬の色を混ぜて二人を見たりしていたのだ。
 だからこの誰が見たってわかり易い二人が収まるべきところに収まるまでこんなにも時間を要するだなんて当時の俺には予想はできなかった。