いつも一緒にご飯を食べる友人たちが委員会でいないため、同じくいつも一緒にご飯を食べている金田一に振られた国見英と食事を共にすることになった。ペラペラと中身のない話をする私に国見はたまに適当な相槌を打ちつつおざなりではあるものの相手をしてくれている。椅子に横向きに座って壁を背もたれにして座っている国見は中性的な面持ちとは裏腹に男らしく大きく口をあけてパンにかぶりついている。その姿を眺めつつ本日のおやつを取り出して国見の目の前でひらひらと振って見せると国見は訝し気な顔でこちらを見た。

「国見の日おめでと!」
「は?」
「ほら、今日は九月二十三日でしょ。で923(くにみ)だから国見の日じゃん」
「意味わかんねぇ」
「国見の日おめでと〜ってことで国見の好物の塩キャラメルを食べまーす」
「無視かよ」

 昨日友人が何気なく言っただけのことだったけれど、コンビニでつい国見の好物を手に取ってしまった。授業中にうとうとする背中を眺めたり、休み時間に早弁してる姿に頬を緩めたり、くだらないことで話しかけてみたりしちゃうついつい気になる相手。きっと国見は私のことはやたらと絡んでくるうざい奴くらいにしか思っていないのだろう。冗談っぽく「明日の日付くにみじゃ〜ん」なんて言っている友人に踊らされている私はかなりチョロい自覚はある。

「国見の日って言うなら一個くらいくれたっていいんじゃないの?」
「なけなしのお小遣いで買ったので無理で〜す」
「ケチ」
「私の金欠っぷりなめちゃいけないよ?」
「知らねぇよ」

 塩キャラメルは初めて食べたけれど意外と美味しくて食べる手が止まらない。私が無心で塩キャラメルを咀嚼している間に国見は大量のパンとおにぎりを食べ終えじっとこちらを見つめている。国見に見つめられたまま最後の一つ包装紙を剥いで小さく茶色いキューブを口に運ぼうと持ち上げると手首を掴まれた。
 無視して食べようとしたが、国見の力は思いの外強くてそのまま彼は私の摘んだキャラメルを自分の口へと持って行った。薄い唇に指まで食まれて、それから指先にざらりとした触感。舐められた、と理解したのは国見の口も手も離されて少ししてからだった。

「ごちそうさま」

 してやったりと笑った国見が憎らしいけれど、ちろりと舐められた指先が燃えるように熱くて、心臓はうるさく鳴り響いている。一瞬で世界がモノクロになりわざとらしく舌なめずりをする国見の舌の赤だけが鮮やかに色づいていて、もうそこしか目に入らない。私を見つめる国見の目に宿った色にまさかと思ったけれどそれも一瞬だったたし、顔に集中した熱を冷ますのに必死で確かめようがなかった。


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