特に大きいわけでもなく、かと言って小さいわけでもない。平々凡々といったところだろうか。これから飛躍的な成長を遂げるかもしれないけれど、多分、きっと、このまま平々凡々なままであるのだと思う。
別にそれはそれでいいのだけれど、ちょっとした憧れがなくはないのでほんの少しだけ成長を期待したい。
なんの話だと思った?私の胸元にくっついてる脂肪のお話です。

「ねぇ、まだなの?」
「まだだよ」
「飽きないの?」
「全く」
「へ、へぇ〜」

高校2年になって初めて出来た彼氏はおっぱい星人でした。
学校にいるときはバレー以外興味ありませんみたいな涼しい顔をして、元気が有り余っている先輩を時には煽て、時には窘め、
バレー部関係で何かあれば赤葦を頼ればいいと言われるほどの優秀っぷりを発揮しているのに2人っきりになると途端にポンコツになる。
言い方が悪いってわかってるけど、ポンコツなのだ。
「日本語わかる?」って問いかけたくなるほど会話が成立しない時だってある。
例えば、今みたいに私の平々凡々な胸を揉もうとしている時とか。
「胸揉んでいい?」「ダメです」「そっか、わかった」「ねぇ、手が全然わかってないよ?言葉と行動が伴ってないよ?」なんて会話がさっきまで繰り広げられていた。「あっれれー、おっかしいなぁー?」なんて某少年探偵の声が脳内で再生されるが、彼が解決してくれることはない。

「京治ってむっつりだよね」
「男子高校生なんて誰でもむっつりだよ」
「なんでそんな堂々としてるの…。」
「彼氏が彼女の胸を揉むのに何か問題でも?」
「あるでしょ」
「…あるの?」

キョトンといつも重そうな瞼を押し上げて目を丸くして私を見つめる。
不思議そうに瞬きをする様子は漫画ならぱちくりといった効果音が背景に書かれているに違いない。
そんな顔をしていても私を後ろから抱きかかえて胸を揉む手は止まらないからしっかりしている。
はじめの頃は京治の手が動くたびにドキドキしていたけど今となっては無だ。
SNSをチェックしたり、雑誌を読んだりする余裕だってできた。慣れとは恐ろしい。

「ま、名前にあっても俺にはないから問題ないね」
「大ありだわ変態」
「失礼な」
「そう言うなら私の胸を揉む手を止めなさいよ!」
「それは無理だね」

がっくり、と肩を落としても京治は素知らぬ顔で私の胸を堪能している。
前に「おっぱい星人」と呼びかけたら当たり前のように返事が返ってきて、この男の開き直りっぷりはもはや感動ものだと仰天したものだ。

「一応言っておくけど、別におっぱいならなんでもいいってわけじゃないよ。名前が好きで名前だから良いわけで、名前以外は全く興味ないよ」

一瞬、ほんの一瞬、ときめいた。「おっぱい」って単語と私の胸元に添えられた手がなければ確実に顔を赤くしてドキドキしていた。危ない。

「ものすごくカッコいい風に言ってるけど内容はおっぱいだからね?」
「俺が名前が好きな事に変わりはないよ」
「ありがとう…?」
「それに、俺とのスキンシップ嫌いじゃないでしょ?」
「…ばか」

振り返ると京治はドヤ顔をしていてその顔が悔しいけどカッコいい。
そして、京治の言う通り嫌いじゃないのだ。
素直に触れたいと言われるのは正直嬉しかったりする。

「京治の変態」
「はいはい、変態ですよ」

ここは生徒なら誰でも入る事が出来る空き教室だからいつ誰が来てもおかしくない。
それこそ、京治がいつも振り回されてる先輩が「あかーしー!」なんて言いながらこの教室を開ける事も十分にあり得る。
それをわかっているのに今もなんだかんだ言いながら胸を揉む彼氏を本気で止めない私も結局は変態なのかもしれない。
おっぱい星人であろうと、たまに会話が通じなくなるポンコツであろうと、私は赤葦京治が好きなのだ。
それこそ「好きだ」と言われて簡単に舞い上がってしまうほどに。
惚れた方が負け。きっと私は一生この男に勝てない。


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