たくさんのおめでとうの言葉と友人たちからのプレゼントを抱えて、パーティーだなんだとカラオケにまで行って騒がしい一日だった。それでも祝ってもらえるのはすごく嬉しくてクラスメイトたちの優しさの余韻に浸りながら近所のコンビニに寄ると見慣れたジャージ姿のクラスメイトが1人。いつも一緒にいるメンバーと並べば感覚が麻痺して少し低く見えるその身長は彼一人で他の人に混ざれば十分な長身であることをその姿を眺めながら再認識した。

「岩泉?」
「おぉ、苗字か」
「ここで会うなんて珍しいね。近くなの?」
「あぁ、まあな」

 ぽつりぽつりと会話を交わしながら会計を済ませ、店先で別れようとすればぎこちなく制止をかけられた。声をかけたときからなんだか歯切れが悪くて、一体どうしたのだろうかと首をかしげながら岩泉の名を呼べば彼はごそごそとカバンを漁りはじめた。

「苗字、あー、その、これ」

 岩泉のカバンから取り出されたのは彼には到底似合わない雑貨屋の紙袋。チラリと見えるのは多分、ラッピングのリボンだ。
 朝、他のクラスメイトに紛れてお祝いの言葉をもらって、てっきりそれだけだと思っていた。クラスメイトの男子なんてそんなもんだ。なのに目の前に立つクラスメイトはカバンに入れていたせいか所々シワのよった紙袋をこちらに差し出している。
 プレゼントを差し出す岩泉の顔は見た事ないくらい真っ赤で、目はらしくもなく泳いでいる。礼を言って受け取ると岩泉は大きく息を吐いた。

「岩泉、これわざわざ用意してくれたの?」
「おう」
「開けてもいい?」
「お、おう」

 コンビニ前に設置されたベンチに腰掛けて包装を解いていく。岩泉は少し離れた正面から私の手元をじっと見つめていた。今日貰ったプレゼントのどれよりも開けるのに緊張しながらリボンを解いて、袋を開けると中に入ったのは色とりどりのマカロンの形をしたバスボムだった。

「可愛い! これ岩泉が買ったの?自分で?」
「及川が女子はこういうのが好きだって言ってんだけどよ、違ってたらわりぃ」
「好きだよ! 嬉しい!ありがとう!」
「渡すタイミング逃してたから会えてよかったわ」
「岩泉忙しいのにほんとにありがとね。早速今日から使う」
「おう」

 背も高く精悍な体つきの岩泉はきっとお店で目立っただろう。自分のために彼の貴重な時間とそして何より食べたい盛りで買い食いであっという間に消えてしまうはずのお小遣いを使ってくれた事に対して嬉しさがこみ上げる。

「ほんとは苗字がよくこのコンビニに寄るって言ってたから渡すために待ってた」

 ぼそりと下手をすれば雑踏に紛れてしまいそうな大きさで呟かれた。最初の挙動不審さはどこへやらしっかりとこちらを見つめる瞳は真っ直ぐで、目があった瞬間からまるで惹きつけられたのように逸らすことができない。

「来年は、もっとちゃんと苗字の好み調べてプレゼント用意するから。また、来年も祝わせてくれ」

 頬を染めてはにかんだ笑顔が可愛らしさを含みつつもカッコよくてかっと頬が熱を持つ。見たことない岩泉の表情と言われたことの意味を考えていたら気づけば「またな」なんて返事も聞かずに去っていった背中はすっかり見えなくなっていた。


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