燦々と照りつける太陽に憎まれ口を叩きたくなるような夏の午後。ジリジリと焦がされる陽射しと水をかけあって騒ぐ声(主に主将の声がよく聞こえる)を背に首にかけたタオルで汗を拭いながらドリンクボトルを1つずつ洗っていく。帽子用意すれば良かったと頭の中で独りごちながらようやく冷たくなって来た水に両手をさらして涼をとろうとしたがあまり効果はなかった。

「「あっづ…」」

 思わず漏れた声に重なる声が1つ。驚いて勢いよく振り返れば予想外の人物が立っていてぽかんと見つめたまま固まっているとため息をつかれた。

「そんなに驚かなくていいでしょ」
「いや、ごめん、まさか国見が外に出てくるとか思わなくて」

 国見英という男は低燃費系男子である。手を抜ける所は手を抜き、抜きすぎて溝口くんに怒鳴られる姿を見るのも珍しくない。休憩中なんかは入り口近くの風が通る場所に座り込んで頭から水を浴びる先輩たちを眺めつつ休憩終了の声がかかるまで1歩たりとも動かないのだ。そんな彼が太陽の照りつける外に出てくるなんて誰が思おうか。

「俺だってたまには水浴びもするよ」
「今日、特に暑いもんね」
「溶けそう」
「確かに」

 ドリンクボトルを洗うすぐ隣の蛇口をひねり、勢いよく出てくる水に頭をさらす。国見の頭によって進路を妨害された水があちこちにはねて、しゃがみこんでいる私の顔にもかかった。本当なら抗議の声をあげる所だが冷たくて気持ちよかったから今回は見逃してあげる。

「あっちで混ざらなくていいの?」
「及川さんがうるさいからいい」

 ワシャワシャと頭を拭く仕草は意外と男らしくて線が細くても国見もちゃんと男の子だったらしい。そう思った瞬間に急に国見を意識してしまって、「あちー」と襟首を持ち上げて風を送る国見の仕草やちらりと覗く腹筋がなんだか見ちゃいけないもののように思えて顔に熱が集中する。

「ちょっと、顔赤いけど大丈夫なの?」
「あ、だ、大丈夫! 気にしないで!」
「熱中症で倒れられても困るんだから適当に金田一とか頼りなよ」
「そこは俺に頼れじゃないんだ」

 どうも決まりきらない気遣いの言葉に笑えば緩く口角をあげた国見と目が合う。珍しい国見の微笑みが太陽光を浴びてキラキラと輝いているような気がした。国見の笑う所は何度か見たことがある気がするけどこんな風に見えたのは初めてで、どうしたらいいのかわからない。

「でも、まぁ、そうだな」

 静かに混乱する私の方へと国見の白い腕がゆっくりと伸びて来て、顔に似合わず大きな掌が熱を蓄えた髪を撫でてぐっと顔が近づいて来て視界いっぱいに国見の顔が広がった。

「名前がもっと俺を意識して好きになってくれたら頼ってくれていいよ」

 髪を撫でた手がそのまま頬を撫で離れていく。それを何故か名残惜しく感じていると休憩終了を告げる岩泉さんの声が聞こえて国見が立ち上がった。状況が理解しきれなくて頭はショート寸前。何も言えないまま体育館へと向かう国見を見つめていたら視線の先の相手ははたと立ち止まり振り返った。国見の顔は清々しいほどしてやったりといったいい笑顔。

「これから本気でいくから覚悟してよね」

 今度こそ頭がショートした。言葉にならない声をあげて膝に顔を埋める私を残して国見は金田一に呼ばれて今度こそ体育館へと姿を消した。


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