05.墨村家の日常

翌朝。

「珠守ー、良守ー、あさだよー、遅刻するよー。」

墨村家のなかで唯一霊感もなく、もちろん結界師でもない父・修史が双子を起こしに来た。ふたりで使うには狭い部屋に布団を二組敷いて、双子は仲良く眠っている。二組の布団のうち、ひとつはぐちゃぐちゃになって部屋の端に追いやられていた。布団に紛れて烏森で着ていた装束も布団に紛れている始末だ。おそらく帰ってきて早々に脱ぎ捨てて布団に入ったのだろう。良守はスウェットに着替えており、彼の腕の中では珠守がすやすやと寝息をたてている。珠守は良守のスウェットに身を包んでいるが、サイズがあっていないためブカブカだ。

「ちゃんと服たたまないと…もう……。昨日遅かったし、疲れてるだろうけど、そろそろ起きてね、ふたりとも。」

室内に張られたおやすみ用結界をノックしながら修史は言う。もちろん、修史に結界は見えないため、空中をノックしている感覚になっているのだが。

結界を刺激された良守は、ぴくりと眉を動かした。

「…もう、朝かよ……、さっき寝たとこじゃん……。」

良守がうなると、その声に反応して珠守も目を覚ました。

「まぶし…、ねむ…、むり、むり、まだねる…。」

しかし良守の胸に潜り込んでしまう。良守も無意識のうちに珠守を抱き寄せて布団の中に閉じ込めた。無理もない、珠守を背負った良守がようやく家に着いたのは朝の4時をまわった頃だった。それから着替えて、珠守も着替えさせて眠りにつき、現在7時。3時間も寝ていない。珠守も回復しきっていないのか、眉を寄せて目を閉じている。


「くぉらーーーーー!小僧ども!!はよぅ起きんか!!」


「きたよ…。」
「ああ、きたな…。」

ぴゅいっとまるでかまいたちが過ぎ去ったように、墨村家現当主・繁守によって良守の結界は破られてしまう。それで外の音が鮮明に聞こえるようになった。

「おじいちゃん…うるさい……。」

うう、と珠守が顔をしかめると、良守はしょうがねぇなあ、と起き上がった。

「珠守はもうちょっと寝てろよ、まだ体きついだろ。」
「ん、ありがと、もうちょっとしんどいかな…。」

「珠守ちゃん、おにぎり作っとくから行きながらでも食べてね!あと30分、おやすみ!」

良守が朝ごはんを食べに向かった。そのあとを修史が追う。やけに素直に起きた良守に感心した繁守だったが、珠守を寝かせるためだと知るとまた表情を険しくした。

「珠守。いつまでもそんなんでは、正統継承者としてまだまだじゃぞ。鍛練を重ねて体力をつけねば。ふたりに方印が出たとはいえ、継ぐのはひとりなのじゃからな。」

繁守が苦言を呈するが、布団の中の珠守はのそ、と動いただけで言葉を返さない。せっかく良守が寝させてくれたのだ。この時間を使わないともったいない。

「お前は守美子には似んかったな、あやつは女ながらに協力な術者じゃったが…。」

分かっている。全部、分かっているのだ。墨村には珍しい女性の正統継承者の生誕。それが2代連続で続き、母親が最強の術者ときたら、よせられる期待も大きいものだ。あいにく珠守は力に恵まれなかったのだが。

「私はお母さんとは違うの。そういうこと言わないで。」

いたたまれなくなって布団からでた珠守は、乱れた髪の毛を手櫛で整えながら言う。ぐちゃぐちゃになっている布団と仕事着をたたんで部屋から出た。


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