運命(良守×異能者/微グロ?)

愛されたかっただけだった。

私が見つめる「人だったもの」はどんどん原形を留めなくなってしまっている。

ああ、壊れるのか。

壊れるんじゃなくて、生まれ変わるのか?

失くして初めて感じる胸の痛みに顔をしかめて、ようやく自分にも人の心というものが備わっていたのだと気づいた。頬を流れる涙に温かさを感じて、自分には泣けるほどの情があったのだと知った。

「なあ、それで、いいのか。」

もう息絶えた「それ」に声をかけた。もちろん反応はない。

「そうか、そうだよなぁ。これが運命ってやつなんだろうな。でも、こっち側に来るなよ。私がお前を殺さなくちゃいけないなんて、そんな残酷な話があってたまるか。」

目の前で横たわっているまだ温かい「それ」を抱き締めた。ぐちゃ、と壊れる音がした。

「おい!なにしてんだよ!救急車呼ばねぇと!」

私を急に現実に引き戻したのはひとりの少年。振り返ると焦った表情で駆け寄ってきた。こいつは確か、隣のクラスの、墨村だ。

「無駄だ、もう、死んでるよ。」
「…っ、それでも、呼ばなきゃだめだろ。お前もそんなことしてないで、とりあえずここ離れないと危ないぞ。」

あまり人通りが多いわけではないが、歩道の端で紛れもない「死体」を抱き締めて泣いているのは確かに異常だ。そうか、と呟いて私は「彼」を引き摺った。少しでも、安全なところに。

「…大切な人なのか。」

墨村は自分が汚れるのも気にせず手伝ってくれた。というかこいつ、グロいとかそういうことは思わないのか。

「……唯一の、肉親…のような存在だった。」
「そうか…。とりあえず、救急車呼ぶから。」

そう言って墨村は携帯を操作しだした。中学生ながら落ち着いており、受け答えもはっきりしている。

「成仏しなかったら、また、会えるのにな。」

墨村は何も答えない。携帯を閉じて、体育座りをする私の横に、同じように座った。

「でも結局は私が成仏させたんだ。だってこっちに戻ってきたら、君や私みたいな奴に殺されてしまうだろう?」

私には大切な人を殺す趣味はない、そう付け足すと、墨村は驚いた顔をして頭を掻いた。

「あんた、異能者か。」
「ああ、残念ながら家督を継げなかった出来損ないのね。君のお兄さんにはお世話になってるよ、墨村くん。」
「兄貴の…、そっか。じゃあ兄貴に電話したら良かったな。」
「いや、いいんだ。頭領には迷惑をかけたくない、忙しいだろうしね。…きっとこの人もそう思ってる。」

そっと血塗れの彼を抱いた。もう、すっかり冷たくなっている。

「出来損ないだったから、家にいられなくなって。夜行に入ることになって。この人が教育係だったんだ。まるで本当の家族のように接してくれた。愛してくれた。」

ああ、だめだ。また涙が。

「この人がいなくなったら、私は、またひとりぼっちになっちゃうなぁ。」

墨村は泣きそうな顔で私を見つめていた。頭領が言ってたな、弟は優しいやつだと。噂の通りだ。

「この人は妖混じりでもなんでもない。ただの人だ。傷を負えば死んでしまう。そんなこと分かってたのに。…運命だったんだろうな。」

夜行を良く思わないどこかの組織からの差し金で殺された彼。私は、守れなかった。私を愛してくれる唯一の人を、目の前でむざむざ殺された。

「なあ墨村くん、この人は私にたくさんの愛をくれたんだ。私は化け物なんかじゃない、人間なんだって、何度も言葉をくれたんだ。そんな言葉をいつまでも信じられなかったのに、この人が死んでから気づくなんて滑稽だろう?もう、この人は言葉をくれないのに。」

そこまで言って、ようやく自分が嗚咽を漏らしながら泣いていることに気づいた。いつも、気づくのは後からだ。

「…俺は、よく分かんねぇけど。あんたが大切なこの人を、滅さずに済んで良かったと思う。あんたも、この人を始末することにならなくて良かったと思う。」

もう周りなんて考えられないくらいむせび泣く私の背を、墨村はそっと撫でた。

「今こんなに泣いてるあんたを見て、俺はちっとも化け物だなんて思わない。そこらの人間よりよっぽど人間らしいと思う。…この人が伝えたかったのは、そういうことだと思う。」

もう愛をくれない死んでしまった彼を思い出した。いつも自分より人のことを考えるような人で、誰かのために必死で、努力を忘れなくて、はるかに年上のくせに少年のように笑う。

「もし、誰もあんたを認めないなら、俺が認めてやる。あんたが飽きるまで、「あんたは化け物じゃない」って、「れっきとした人間だ」って言い聞かせてやる。」

な?と墨村は優しく微笑んだ。その顔に彼の面影を感じて、また、これが運命かと思った。

この日、この場で彼が死んでしまったことも、この日、この場で彼に出会ったことも。

それなら、

「あなたは、私を愛してくれますか?」

私は代わりを探して、また、愛を求める。


Fin.

もどる おわり



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