好奇心
「とーちゃく!でさァ!」
一度は転げ落ちかけた階段を、しっかり踏みしめてふたりは万事屋の戸を叩いた。
騒がしいみおの声を聞きつけて、いち早く来訪に気付いた神楽と新八が笑顔で迎える。
「沖田さん、みおちゃん、いらっしゃい。今日はどうされたんですか?」
丁寧な対応の新八を、「ちょっと気になることがあってねェ」と受け流しながら、靴を脱いで部屋の奥へと視線をやる。
相変わらずの逆光。まぶしい中心にその姿はあった。
「旦那ァ。ちょっとばかしお時間よろしいですかィ?」
「なに、改まっちゃって。銀さん怖いんだけど。」
言葉とは裏腹に、ゆっくりと立ち上がった銀時は、ふたりにソファを勧めた。
「新八、茶いれてくれ。」
自身もソファに座り、総悟とみおに向き直る。
「みおのことなんですがね、なにせ未だに分からないことのほうが多いもんで。旦那なら何か知ってるかと思って来させて頂きやした。」
例えば、みおの家族のこと。家のこと。馴れ初め。どうして真選組に置いて行ったか。
聞きたいことは山ほどあるのだ。
銀時は頭を掻いて、ゆっくりと口を開いた。
「んなこと言ったってなあ。直接みおに聞きゃあ早いんじゃねーの?もうだいぶ喋れるだろ。」
会話に名前が登場したことに驚き、みおはぱちくりと目を瞬かせた。総悟を見て、銀時を見て、そして神楽と新八を見た。みんなの視線がみおに向いている。
いたたまれなくなって、向き合う形で総悟の膝に座る。総悟はみおの背中に手を回して支えた。
「まだ、でさァ。こいつはまだ、『うまく喋る』ことはできやせん。それにあの時、みおの家にいた旦那にも興味があるんでさァ。」
みおが嫉妬まがいの感情を言葉にできなかったことを思い出した。親バカ抜きでも賢い子だとは思うが、凄惨な過去を説明できるほどの語彙力があるとは思い難い。
短く切り揃えられた髪をそっと撫でた。
心なしかみおは暗い表情で目を伏せている。
「総悟…、みおは……、おもいだしたくありやせん…。」
きゅっと結ばれた口、表情を隠すように俯いたみおを見て、銀時はため息をついた。
「みおがどんだけ聡い子か、いちばん分かってんのはお前だろーが。」
「分かってるつもりでさァ。だが知らないこともある。」
「好奇心が理由ならやめとけ。」
「好奇心だけじゃねェ。」
ただならぬ雰囲気に、みおは怖くなって総悟にしがみついた。
「みおを知ることが、未来に繋がる。知らないままでいるのは、もう嫌なんでさァ。」
総悟は銀時を見据えた。
銀時が不安そうなみおを見ると、みおは少しだけ顔を上げて小さく頷いた。
「みおがいいならいいんだけどよ…。はあ、どうする?出とくか?」
思い出すことはあるにしても、何も自分から聞く必要はあるまい。そう思った銀時なりの配慮だった。
「ん…、がんばる…。みおも、総悟におはなしする…でさァ…。」
ぎゅっ、とみおは総悟に抱きついた。総悟は申し訳なくなりながらも、しっかりと過去を受け止める覚悟を持って抱きしめ返した。
「じゃあどこから話すかなぁ。まあ、俺とみおが出会った頃から話すか?つっても、それも"あの日"のことだけどな。」