01.いただきます!


ガタガタガタ。隊士たちはそれぞれがお盆に食事を乗せて席についた。待ちきれないと言わんばかりの顔で手を合わせ、一斉に「いただきます!」と言って食べ始める。

そして、ここにも同じように「いただきます」をしようとする人が。

他の隊士たちとは少し離れたところに腰掛ける二人組。真選組一番隊隊長、沖田総悟と、数日前に「捨て子」として屯所の前に座っていて、そのまま住むことになった、みおである。

「よし、みお、"待て"でさァ。」
「あいっ!」

じゅるり、とよだれを拭いながら、少女は元気よく敬礼した。その目はじっと目の前の食事を見つめている。今か今かと待ちわびるその目は、爛々と輝いていた。

「……う?」

しかし、いつまで経っても"よし"とは言われない。まさかこのまま食べさせてもらえないのだろうか、とみおは総悟を見つめた。視線に気づいた総悟は、にやりと口角を上げた。同時にみおの腹の虫もぐぅぅ、と情けなく泣く。

「みお、ご飯を食べる前には?」

総悟の深紅の瞳がみおを射止めた。みおはうぐっ、と言って、ばつの悪そうな顔をした。そう、なぜなら、

「いあー、っす!」

日本語が壊滅的に苦手だからだ。ちなみに今のは「いただきます」のつもりである。

「ちげェ、もういっかい。」
「うー…、いあーっす!ます!」
「惜しい。いただきます、ほれ。」

むにぃ、と総悟がみおのほっぺをつまんだ。ほかほかとご飯から立ち上る湯気を尻目に、ふたりは見つめ合う。みおの限界は近い。

「い、いふぁらきやしゅ…。」
「ハイその調子でもういっかい。」
「むむむ…。」

みおは次第に涙目になっていく。それに比例して総悟は笑顔になっていった。ただのドSである。

「オイ総悟…そろそろやめてやれよ、みおが不憫だ。」

ドンッ、とふたりの目の前にお盆を置いたのは、副長の土方十四郎だ。座ると同時に間髪を入れず食事にマヨネーズをかけ始めた。ぶちゅちゅ、ぶすっ、にゅるり、と、なんとも言えない音を立てて食事がマヨに埋まっていく。

「俺からしてみればマヨぶっかけられる食事のほうが不憫でさァ…おえっ。」
「う…うっぷ。」

みおも口元を手で押さえた。一気に食欲は失せていく。

「そーご…、マヨ……。」
「マヨなんて言葉覚えるんじゃねーや。さっさと食って逃げやしょう。」

総悟は食事に向かって手を合わせる。倣ってみおも手を合わせた。

「いただきやーす。」
「いたーきやしゅ!」
「…惜しい、けどまァ良いってことにしてやりやしょう。みお、"よし"。」
「あいっ!」

ようやくふたりは箸をとって食事にありついた。ちなみにみおの箸は、幼児が使う、矯正の輪がついているそれである。下手くそながら必死に箸を使って口にご飯をかきこんでいた。総悟ははぁ、とため息をついてティッシュを手にとった。

「みお、もっと落ち着いて食いなせェ。」

ぐいっ、と口の周りをティッシュで拭いてやった。みおは「あいっ!」と言って再び食べ始める。…あぁ、また米粒つけやがって…。

もう一度ため息をついて、総悟は食事を再開した。後でまとめて拭いてやろう。少女の笑顔に、自らも自然と笑みがこほれた。

…いつか絶対「いただきます」を言わせてやる。

総悟は心に決めた。




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