リクエスト | ナノ


つかまえた。

それは普通で普通な日のラウンジでの出来事

「渡狸、ほんっと可愛いなぁ…」
「その可愛らしい笑顔…たまりません。」
右隣に連勝、左隣に双熾。
イケメン二人が渡狸に引っ付くようにしているにも関わらず、
当の本人は、素知らぬ顔でパラパラと雑誌を捲っていた。
金にそめた髪のつむじにキスをしたり、耳を甘く噛んだりしながら、
口々に渡狸に愛を囁いている。
どのくらい時間がたっただろうか。
渡狸がパタン、と雑誌を閉じて両隣の二人を交互に見つめてから、口を開く。


「なぁ、俺のどこが好き?」


これはチャンス到来と言わんばかりに、
二人は口々に渡狸のいいところを褒めていった。
優しいところ、面倒見がいいところ、と挙げだしたらキリがないようで。
渡狸は、はあ、とため息をはいた。
「どうしたんですか、渡狸さん?」
「なんかあった?」
「……残夏は、なんも言ってくれないんだ。」
二人の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「残夏、俺に好きもなんも言ってくれなくて。俺ばっかり好きみたいで、」
「でもたまに優しくしてきて、寒いときにスーツの上着貸してくれたり、」
「なんかもう、俺ばっか好きみたいで、」
渡狸の瞳から涙が零れ落ちる。
惚気かよと思いつつ、必死に渡狸をなだめる。
「そんな酷い男なんてやめて、僕が幸せにしますよ。」
「なにいってんだミケ、ぜってー俺のほうが幸せにできる。」
「一反木綿さんになにができるんですか?」
「騙し狐が何を言ってるのかよくわかんねーなー」
泣いている渡狸を挟んで、両者が笑顔で睨み合った。
「ちょっと屋上生きましょうか、お兄様。」
「あぁ、ちょっと外の空気でも吸ってくるか。」
席を立ち、泣く渡狸を置いてラウンジの外へと向かった。


「…わ〜こわいこわい〜」


聴き覚えのある声に涙で濡れた顔をあげる。
彼は満面の笑みでにこりと笑っていた。
「ざ、ざん…っ……」
「……」
「っ……」
なぜか怖くてまた顔を下げようとすると、ぐいと顎を持ち上げられる。
彼は、薄い目を開けてどこか楽しそうな表情をしていた。
「ボク、渡狸のこと嫌いじゃないよ?」
「っ……、ぅ、」
ほらまた。
嫌いじゃないなんて曖昧な表現。
一旦止まった涙がまたはらはらと流れ落ちた。
視界がぼやけて残夏の表情がみえなくて、つらくて。
顎から手が外れて、頬へとあてられる。
「あぁもう泣かないで。面倒だよ〜」
とか言いながら涙を拭ってくれる指はとても優しくて。
辛くなって、苦しくなって、やめたくて、


でも、


「っ、すき、」
「……」
「っ、う、すきぃ…」


好き、好きと、想いが溢れて、とまらなくて


「……渡狸、」
「っ、ふ、…ひっく…」
「すきだよ、すごく。」
そっと涙をもう一度拭われる。
「ただね、」
好きすぎて君をいじめたくなっちゃうんだ、と額にキスをした。
そこから流れるように眉間、瞼、鼻、両頬、顎、首とキスを落としていく。
でも、肝心なところには口付けてくれなくて。
「ボク、そんな渡狸好きだよ?」
ぐちゃぐちゃにしたくてたまんない。
にこり、と妖艶な笑みを浮かべたかと思うと、
唇に掠るようなキスをした。
リップ音をたてる唇を合わせるだけの軽いキス、
唇を合わせてから唇を舐めるキス、
歯列を舌でなぞられるキス、
舌をからめてくるキス、
舌をからめてちゅうと吸われるキス、
最後はもう口内を犯すようなキスだった。
甘ったるい自分の声が唇の隙間から漏れるのも、
気にすることができなくて、ただ、意識と何かがが溶けていくことだけわかる。
唇がやっと離れたときには、いすに座っていたはずなのに、
腰がくだけて床にへたりこんでいた。
でも、それでも、


たりなくて、


残夏がおいで、と手を伸ばす。
あぁうん行っちゃダメだとわかってるけど、けど、もう、
俺にはこの手を振りほどけなくて、
彼がにこり、といつもと違う笑みを浮かべた、






気がした