たちつて トルテ来た 「夏目に…お菓子?」 「わーーーっ!あ、あんまり大きな声だすなぁっ!」 渡狸がしーっと口の前で人差し指を立てる。 「渡狸の声のほうがおおきいよ…?」 「ハッ、そ、そうか……」 拗ねてるような、照れくさそうな。そんな表情をしていた。 「…ところで、」 お菓子って?とカルタは口元を隠してそっと耳打ちする。 「いや、その、いつも…」 しどろもどろになっている彼の説明を簡潔にまとめると、 残夏にはいつもお世話になっているから、 手作りのお菓子を作りたいから手伝ってくれませんか、ということだった。 「いいよ…?」 「なんで疑問系なんだよ、でも、」 ありがとう、とほっとしたような顔でお礼を言った。 ** 「渡狸……、へたくそ。」 「なにおう!?」 「Tシャツはあんなに綺麗に作れるのに…」 「い、いま言うことじゃねーだろ!?」 あれから数日。場所は打って変わって、 快く貸して頂いた厨房にカルタと渡狸の2人はいた。 カルタの厳しい監視の下、お菓子作りが行われているのだ。 三角巾にエプロン、と傍目から見ると微笑ましくみえる。 実際はカルタのスパルタお菓子作りなのだが。 「もっとボール立てて。」 カルタが渡狸の持っているまだ泡立っていない生クリームの入ったボールを、 真横から、若干縦に変える。 「こ、こぼれねぇの?」 「渡狸は、力入れすぎ。」 力抜いて、手首だけ。と空中で泡立て器を使うしぐさをした。 渡狸はうーん、と首を傾げて同じような動作をする。 「そうそう。」 その調子、と言うとまたチョコレートを刻み始めた。 泡立て器で生クリームを泡立てる音と、 トントンというリズミカルな音だけが部屋に響く。 「……カルタ、悪りぃな。」 付き合わせちまって、とすこし眉を下げて手を止めた。 次の瞬間、腰をすこし強めに叩かれる。 「いっ!?」 「お菓子作りは、鮮度大切……」 「っ…う、は、はい…」 「…早くやろ?」 夏目待ってるよ、とカルタはにっこりと笑った。 痛みで涙目になっているも、渡狸も歯をみせてにこりと笑った。 ** 「……で、」 「……」 「で……」 「できたね、渡狸。」 「ちょ、言わせろよ!?」 「…よかったね。」 「っ、ああああありがとな!!」 とまぁ、なんやかんやで、 手作りのお菓子――ガトーショコラ――ができた。 甘いのが苦手でも、ちょっぴりビターにしたら大丈夫。 というカルタの助言でこのケーキに決まったのだ。 そうこうしている間にラッピングも終え、あとは渡すだけ。 渡すだけ。自分の言葉に渡狸は固まった。 「……渡狸?」 急に固まってしまった彼の肩をぽん、と叩く。 焦ったり、青くなったり、後悔したり、クルクルと表情がかわるかわる。 「…や、やっぱり、渡せねぇ……」 「せっかく、作ったのに……なんで?」 だって、とまるで子供のように泣きそうな顔をする。 「……ただでさえ、男なのに、しかもバレンタインでもねーのに、」 こんなん作って渡されたらどう思うかわからねぇじゃん、とポジティブな彼には珍しい、 とてもネガティブな発言をした。 「……」 恋する乙女か。 そう言いたくなるのを抑えて、 エプロンと三角巾を華麗に脱ぎ捨て、SSのスーツ姿になる。 「渡狸。」 「え?」 ひょーい、と天井が急に近くなると同時に浮遊感を感じた。 …え、ひょーい?浮遊感? 「ちょ、うわああああああ!?」 案の定落下し始めるも、見事キャッチされ、そのまま変化した片手にのせられる。 彼女のもう一方の腕の脇にはしっかりとラッピングされた箱。 そのままカルタはどこかへと向かった。 「お、男としての、プライドがぁあ、あぁあああああああああ!!」 渡狸は、涙目になると同時にぽんっと音を立てて、豆狸へと変化した。 カルタがそれを見るなり変化した腕を解き、腕の中でしっかりと抱える。 「行かなきゃ、後悔するよ。」 渡狸が後悔するとこ、見たくない。とすこし悲しそうな顔をした。 「カル…」 「着いた。」 「え?」 早すぎない? しかも、ここってラウンジじゃ、 「渡狸、グッジョブ。」 「え、グッジョブじゃ、」 彼女は扉を開けて、渡狸を放り込んだ。 「ちょ、ぁああああああああ!?」 ぐえっ、と声を上げて変化が解かれる。 「っ…あぶないだろうがカル、」 「どしたの渡狸〜?」 …頭上から出来れば聞きたくなかった声が降ってきた。 顔をあげればほらね。 「…え、あ、ご、ごきげんよう?」 「何で急に上品になったの〜?」 渡狸ったら変〜、といつもの満面の笑みを浮かべる。 変で悪かったな。 「夏目、」 「あれーカルタたんも一緒だったの?」 「うん……」 ぱんぱんと埃を払って立ち上がると、カルタに、これ。と渡された。 渋々受け取ったあとに、耳元で「……がんばって。」と囁かれる。 思わず頬を赤くすると、ふふふと無邪気に笑った。…小悪魔かよ。 残夏のほうへと向き直る。 「っ、あの、さ、その、」 「…なに〜?」 あれ?なんでだ?残夏さん怒ってる、怒ってらっしゃる。 笑いながら怒ってらっしゃる。 「ヒッ…いや、あの、これ、」 「…デートのお土産?」 「へっ?」 意外な言葉に残夏を見上げると、 彼がちょっと悲しそうに眉をひそめていた。 え、デート?誰と?カルタ?え? 「誤解なんだけど…?」 「じゃあ今日一日何してたの〜?」 「えっ、それは、その、」 「ほら答えられないんじゃん〜」 お土産ならいらないよ、とショボンとした表情を見せる。 なんかもう、なんか、愛しくてしかたないんですけど、 「っ…ああああ、違う!!」 「え?」 「これはっ!その、」 カルタに協力してもらって作ったんだ、とそっぽを向きながら箱を渡す。 「…作った?」 「作った!ガトーショコラってやつ。…上手いかは、わかんねーけど。」 あぁもう恥ずかしすぎて死ねそうだ。 「…渡狸。」 「ハイ。」 「抱きしめてもいいですか。」 「っはあ!?」 了承もなしにぎゅう、とでかい兎に抱きつかれる。 あーここが一番安心するなーって一瞬思ってしまったのが悔しかった。 「残夏。」 「んー」 「はずかしいん、だけど。」 「んー」 「離して、」 「やだ〜」 「離れろ、」 「離れたらキスするけどいいの?」 「すみませんでした。」 苦しい、と呟いたら逆にキツく抱きしめられる。 あーそういえばこいつ誤解してたんだっけ。 ごめんな、と背中をぽんと叩くと一度キツく抱きしめられてからそっと離される。 キスしていいかなんて聞いてきて、あぁもう 言わなくてもわかれよ! |