リクエスト | ナノ


悪戯

「うわあっ!!」
渡狸はまるでどこかの漫画のように飛び起きた。
恐ろしいものを見たかのように目を大きく開き、肩で荒く息をする。
頬に汗が伝って、シーツへと落ちていった。
―――なんなんだ、今の夢
血まみれの女が笑いながらこちらに向かってくる光景を思い出し、がたがたと身体が震える。
お、俺は不良だ!んなもん、なんともねぇ!
でも、もう一度眠ろうにも、何度も光景を思い出してしまい中々寝付けなかった。
誰かそばにいてほしい。怖い。
なんて考えると、うさ耳がぴょこぴょこと脳内ではねる映像が浮かぶ。
「……」
のろのろとベッドから降りると、玄関へと向かった。





…来てしまった。
ああああ、と小さく呟きしゃがみこむ。なんでよりによって残夏の顔が浮かぶんだよほんと。
でも来てしまったものは仕方がない。
ここは男だ、思い切りいけ!と自分に言い聞かせ、インターホンを思いきって押す。
しん、とした沈黙がかえってきた。もう一度インターホンを押すも、何の返事もない。
まぁ、寝てるよな。
それに、いくらこ、恋人とは言えこんな時間に来られたら迷惑だし。
渡狸はため息をもらした。
「あれ、渡狸?」
聞き覚えのある声に心臓がどくり、と音をたてる。
声のするほうに目を向けると、少し顔の赤い、髪をおろした普段着の残夏が立っていた。
「どーしたの、こんな時間に?」
危ないよ、と不思議そうな顔をする。
「ざ、残夏こそ、どうして…?」
「ん〜?ボクは、かげたんとそーたんとのんでただけ〜」
「あ、そっか…、」
そっか、のんでたのか。
眠りを邪魔していないことにほっとした。
「なんか用だったの?」
「へっ!あ、いや、」
「もしかして怖い夢みて眠れなくなった〜とか?」
心臓がまた別の意味で音を立てる。
まぁ渡狸に限ってそれはないかぁ、と付け加えてケラケラ笑った。
え、俺に限ってない?え?
「それとも寝込みを襲いに来たとか〜?やだ、渡狸ったら大胆☆」
「っそ、んなわけねーだろ!ただ、お前の眠りを邪魔してやろうって思っただけだ!」
「わ〜悪趣味〜」
口元に手をあててクスクス笑う姿が憎らしくて。
真っ先に浮かべた顔がこいつだったことと、顔を見て酷く安心した自分に腹が立った。
足早に来た道を引き返し始める。
「え、もう行っちゃうの〜?」
「るっせぇ、酔っ払いに付き合うほど余裕ねーから。」
つれないなぁ、と彼は苦笑した。
残夏の横を通りかかる寸前、先ほどの言葉を思い出す。
「…どうせ、俺に限ってないよ。」
「え?」
「……なんもない!おやすみ。」
―――残夏の馬鹿
そう心で呟くと、ぐいと首元を掴まれた。
「っうおわ!?」
「誰が馬鹿だって?」
これぞほんとのキラースマイル。背中に嫌な汗がながれていく。
「いや、ごめ、っていうか視るのはなしだろ!!」
「だって視えちゃったんだもん〜それより、」
さっきのどういうこと?と後ろから抱きしめられながら、優しく問いかけられる。
……ずるい。俺がそれ弱いって知っててずるい。
付き合いだしてまだ日は浅いけど、こんなとこはすぐ気付かれる。
たまらなくなって、腕を解き、振り返って残夏の胸に抱きついた。
「……今日は少々大胆?」
「っるさい、……」
こわいゆめをみたんだ、とぽつりと呟いてみる。
「ねむれなくて、こわくて、」
いっしょにねむりたかったんだ、と残夏を抱きしめた。
「……あー…」
「…だめ、か?」
顔をあげて残夏をみると、いやだめじゃないけど、と頭を撫でられた。
「ただ、ちょっとボクがたえれるかなーって…」
意味が分からなくて首をかしげる。
「いや、いいや。うん、一緒にねよっか。」
目の前がぱあっと明るくなった気がした。
これでやっと眠れる。







眠れない。
残夏は腕のなかですやすやと眠る渡狸の寝顔を見ながら何度も後悔した。
こんなのたえ切れるはずない。
健全な男子なら恋人に一緒に寝ようといわれて反応しないほうがおかしいだろ。
とつくづく感じながらも可愛い寝顔にそんなことができないのが現状だった。
「ん……ざんげ……」
いきなり自分を呼ばれ、身体がびくりとはねる。
ただの寝言のようだ。
夢の中にも自分がでてくるなんてうれしくて。愛しい恋人の額にキスをした。
「すー……ざんげ……」
「なぁに?」
返答なんてもらえるわけないのにね、とくつくつと笑う。
「……すき…」
残夏の笑いがぴたりと止まった。
たまにしか、好きといってくれない恋人が、いま、
ぷちん、とどこがで何かが切れる音がする。
「っ…あーもう。」
ごめんね、とかすかに残る理性で謝罪すると、
唇、頬、首筋、鎖骨と順番にキスをおとしていく。
んん、とわずかに眉をひそめる姿も可愛くて、
起こさないようにそっと服をたくしあげた。
胸の飾りを口に含むと、明らかに先ほどとは違う甘い声が小さく上がった。
吸ったり、舐めたりを執拗に繰り返すとんん、と行為に感じている声が漏れはじめる。
かり、と軽く噛むとひあっ、と甘い声がもれた。
…下も、いいかな、と手を伸ばそうとすると
「んん…」
渡狸がとろんとした目でこちらをみた。
あ、やばい、起きちゃった。
荒い息も上がって、潤んだ瞳、心なしか顔も赤い。
ごくりとつばを飲み込んで、頭を撫でる。
「これはゆめだよ。渡狸。」
「ゆ、め…?」
そう夢、とにっこり笑うとそっか、と呟き、また寝息を立て始めた。
ふう、あぶないあぶない渡狸に殴られるところだった。
彼の衣類の乱れを整える。
「…どうしよう、これ。」
まぁお察しの通り、自身が主張を始めていた。
「……」
…まぁいいか。すやすやと眠る恋人の瞼にキスを落とす。
こんな可愛い寝顔も見えたしね。
でも、またいつかお返しはしてもらおう。
とりあえずいまは、






おやすみ。