おもい ひとりぼっちにして、ごめんね 「俺が野ばらを?」 レンレンがきょとん、とした顔で残夏を見つめた。すぐにあはは、と声をあげて笑う。 「おじさん、そんな噂話好きよ〜」 「え?噂?」 レンレンは噂に決まってるじゃない、と笑いながら手元の水を飲み干した。 今日、レンレンの家に遊びに来ている。ちなみに平日のお昼間なので野ばらちゃん学校でお勉強だ…変なお勉強してなきゃいいけどね。なんて話は置いといて。彼とは半年ぶりに会ったのだけど、ほんと40ともなると会うたびに渋くなるなぁとしみじみと感じる。それとレンレンは野ばらちゃんと再会してからお酒をやめた。まぁそんなとこから、きっとレンレンを視たら野ばらちゃんが写ってるんだろうなぁって思う。だからこそ怖くて視ることなんてできないけど。 「野ばらは、娘って感じかな。」 「ふーん。彼女は?」 レンレンはその単語にがくりと頭を落とす。 「痛いとこつくなよ……」 残夏は彼女とかはいねーの、とふてくされた顔で聞いてきた。 「今は独り身満喫中☆」 「じゃあ人に言っちゃだめよ〜」 でもやっぱり独り身は寂しいよ、とケラケラ笑えばレンレンは苦笑をもらした。 「そうだなぁ、寂しいね。」 遠い目をして、どこか寂しそうな表情をみせる。 …あぁそうだった。 彼をひとりぼっちにしたんだった。 死ぬな1人にするな、と泣いて縋ってきた当時17歳の彼を置いてけぼりにしたんだった。 「……ねぇ、レンレン。」 「なぁに〜?」 「ひとりぼっちにしてごめんね。」 レンレンの動きが一瞬止まる。 「なに、いきなり、」 「寂しかったよね。」 「残、」 「つらかったよね。」 「……、うん。」 「心細かったよね。」 「うん。」 「ひとりにしてごめんね。」 少しの沈黙のあと、彼はこてん、と肩に頭を乗せてきて、すがるようにボクの手に指をからませた。あぁ、手すらも年齢を感じられるなんて。残夏もぎゅっと強くからませる。それだけじゃ、まだ埋まらないと思うけど、ボクはどこまでこの子に触れていいのかわからなくて、 その時、何かが視えた。 すきだよ、残夏 すき、 さみしかったよ、 あいたかった、 三年後のあのとき、 残夏とミケが うまれたって聞いて、 どれだけ嬉しかったか であえてよかった、 神さま、残夏にすきなんて 絶対言わないからさ、 せめてあと少しだけこうさせて 彼は無垢で寂しがりやで、根もなんにも変わってなかった。愛おしくてたまらなくなって、指をからませたまま、彼を抱き寄せる。 「…ざん、」 「我慢しなくていいよ。」 「……」 「もう、ひとりで抱えこまなくったっていい。」 時間の重さも運命を変えることの難しさも知ってるボクだからこそ、寂しい気持ちわかるんだよ。 「すきだよ、レンレン。」 レンレンの身体が強ばる。 「ボクは君が大好き。」 「残夏、それは、」 からませた指を強く握る。 「…連勝が何と言おうとね、」 これはボクだけの気持ちだ、と抱き締めた。徐々に抵抗する力がゆるくなり、背中にそろりと腕が回されてぎゅっと服をつかまれる。 「、おっさんの23年分は、重いんだぞぉ…?」 涙声になっているレンレンが愛しくて、切なくて。すがりついてくる彼を抱き締めながら、空いている方の手で柔かな毛を指で梳きながら撫でた。 |