01
「まぁ、というわけで。」
と、おっさんが手をぽんと合わせる。
「…で?」
「入居の手続きが整うまでは家で住んでもらうよ。」
まぁ一日しかないけど、と何事もないような口ぶりで笑った。
瀬那は広い車内で、移り変わる景色をみながら固まって、隣にいる男を凝視する。
何を言い出すんだこのおっさん。
―――人を拉致っといて、住めと?
ますます意味がわからなくなってきた。
あまりの困惑さに言葉を発せずにいると、
そういえば自己紹介が遅れたね、と胸元に手をいれ、名刺を渡してきた。
「私は、入江カンパニー社長を勤める入江要(いりえかなめ)。」
両手で受け取りじい、と見る。うーん、どっかで聞いたことあるぞ。
窓の外をぼんやり見つめると、
「あ。」
まぁありがたいことに入江カンパニーの有名菓子がでかでかと広告になっていた。
……おっさんは訂正しよう。
「でも、俺、そんな大したものも造ってないよ。」
あはは、とイケメンスマイルで爽やかに笑った。
いやあんたかなり大したもんつくってんじゃねぇか、あのお菓子食べたことあるんだけど。
それよりも、聞きたいことが山ほどある。
私はどこにいくの?
メゾンドアヤカシって?
センゾガエリってなに?
私がセンゾガエリってどういうこと?
両親との関係は?
「あの入江さ、」
「さて着いたよー。」
いや、人の話聞けよ。
さぁさぁ、と入江さんに手をとられゆっくりと車外へと降りていく。
「…」
いや、まぁ、想像はしてた。してたけど。
「なんじゃこりゃ…」
瀬那の目の前には超高層ビル建っていた。しかもお迎えつきで。
入江さんはさっきと変わらない笑顔でただいま、と言っている。
―――あぁこの人、裏表がないのか。
でも、世界が違う人だと思う。この人と私は。
「ほら、早くおいで瀬那ちゃん。」
そんな笑顔で名前呼ぶなっての。と思いつつ、苦笑いを浮かべた。


ガラス張りの自動ドアを抜けると、明るいフロントへと辿り着く。
おかえりなさいませ、とフロントのお兄さんに笑顔で言われてとりあえず会釈をした。
またまたガラス張りのエレベーターに乗り込み、入江さんは最上階のボタンを押す。
「どうこの景色?」
と無邪気な笑顔を向けられる。
まぁ確かに綺麗、だと素直に思った。
「…悪くないんやないですか?」
「でしょ。あれ、瀬那ちゃんって関西の言葉なんだ?」
「まぁ…誰に影響されたのかはわからないんですけど。」
「へー!」
それから他愛ない質問を投げかけられ、答えていると最上階へとついた。
「はい、ここが一日だけ瀬那ちゃんの家ね。」
いつもは俺の家なんだけど、と笑う。
そこは、ただただ広い部屋だった。
ソファは高そうだし、床もまた高そうな絨毯が敷き詰められている。
見上げればシャンデレラと。
「ひとりで、住んではるんですか?」
「ん?まぁね。」
「すげー…」
そう?といたずらっぽく微笑む。
「じゃあ俺は手続きとかあるから。お腹空いたらルームサービスで頼んで。」
また迎えにくるね、と手を振りながらもと来た道を帰っていった。
途端にしん、と無音になる室内。
「……」
これまた高そうなソファに座ってみると、腰がふわりと沈む。
こてん、と横になった。
―――色々あったな
どっと今までの疲れが押し寄せてきた気がする。
抗わずに目をつむると、そのまま真っ暗な世界へと吸い込まれた。













prev next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -