あれから必死で追いかけたけれど、土方がいるのはまだ大分先。もちろん、そんなに簡単に追い付ける訳がない。
それに、私の体力ももう限界に近づいている。
「ひじ、かた!」
呼び掛けても聞こえるはずなんてない。もはや今の私は只の怪しい人だ。
諦めて止まりかけたその時、都合よく土方の前の信号が赤になった。
私は走った。
何でこんなに必死になっているのかが分からない。
でも、いつどのタイミングでここまで土方に惚れていたのかなんて、そんな事はもうどうでもよかった。
運良く土方に追いついた私は大通りの長い信号待ちに初めて感謝しつつ、土方のジャージをつかんだ。
「はあ?お前、何やってんだよ」
「はあ、はあ……むり、今、しゃべれない」
「マジで何やってんだよ……とりあえずすぐ止まるのはよくねェから、歩くぞ」
「ん」
土方は青になった信号を歩き出した。
「で、何しにきたんだよ」
私は問いかける土方を無視して空を見上げた。
やっぱり、大きくて綺麗な月だ。
「なんでだろーね」
「せっかく二人きりにしてやったのに」
「はは…そうだね」
バカげてる。
今更気付くなんて遅い。
「たださ、」
だとしても、気付いてしまったものは仕方ない。
「あ?」
とりあえず、迷惑をかけたお詫び…になるのかは分からないけど。
「月、綺麗だね」
「そうだな」
私が空を見上げると土方も同じように空を見上げた。
「ねえ土方」
「なんだ」
「私が好きなの、銀ちゃんじゃなかったっぽい」
私が立ち止まってそう言うと、土方は鼻でわらって「そうかよ」と言って前を歩き出した。
そして、数歩歩いたところで立ち止まって後ろを振り返った。
「たしかに、
お前と見る月は、綺麗かもな」
随分と意味深な一言だ。
にやりと笑った土方は、今までで一番かっこよかった。
「今度は綺麗な青空が見たい」
「ふっ…いくらでも見せてやるよ」
その自信満々な笑みに、
惑わされる日が来るのだろう。
そんな日が楽しみでしかたないとか思う私は、馬鹿なのかもしれない。
これからもずっと、
綺麗な空を、
見せてください。
喜んで、と笑うアイツに
私は恋に落ちました
(ただいまー)
(おかえりー……あれ?牛乳は?)
(……あああああ!!!!)
(何しに行ったのよ…)
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