「…違う」
放課後の教室でシャーペン片手に頭を悩ませる。
机の上にあるのは数字の教科書とノート、その上には昨日買ったシンプルなレターセット。
正直、どうかと思う。この年になってラブレター、なんて。
私が沖田くんの事が気になりだしたのは、確か1年ぐらい前。
私が、先生に頼まれて集めたノートを職員室まで運んでいた時の事だ。
両手いっぱいに抱えたノートを落としそうになった私に「気をつけなせィ」と困ったように笑いながら手を貸してくれた沖田くんに、本当は職員室に用事なんてないくせに嘘までついてノートを半分運んでくれた沖田くんに、
惹かれていくのにそう時間はかからなかった。
私は窓の外を見た。ここからは剣道場がちょうど見える。私は、ちいさくため息をついた。
気持ちを伝える、っていうのは、直接言うのが一番いいに決まってる。
たった二文字。私は、その二文字を言う事に何度か挑戦しようとした。でも、最終的には直接ではない方法に逃げようとしているのだ。
言わなきゃいけないのはたった二文字なのに、私の手に持ったシャーペンはたらたらと長い文章を書く。
だめ、
直接言わないと。
その時、教室のドアが開いた。
「あれ?名前じゃないですかィ。何やってんでィ」
「え…あ、課題やって帰ろうと思って」
高鳴る胸を抑えつつ書きかけのラブレターを教科書で隠す。
「まあ頑張りなせェ。じゃあな」
沖田くんは、自分のロッカーにあったタオルを取って、教室を出ようとした。
今だ。
私は思った。
何故かは分からない。確信も無い。でも今なら、神様が味方してくれる気がした。
私は机にあった書きかけのラブレターをぐしゃっと丸めた。その音に気付いた沖田くんは不思議そうな顔でこっちを見る。
私が紙をゴミ箱に投げると、それはきれいな弧を描いて中に入っていった。
全てゴミ箱に捨てて
「沖田くん、私… 」
数秒後には、
笑った私。
20100205 title:heaven's blue
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