彼は、面倒ごとが嫌いらしい。べたべたした事は何でも嫌いで、あっさりとした、さらっとした関係や事を好むらしい。

あの人は大人だから。それぐらいは仕方ない。
だから私は、彼に合わせて大人の女を演じていた。


「あ、もしもし?」

「名前、か?」

「私のケータイなんだから私が出るに決まってるでしょ」

「そうだな。久しぶり、だな」

「そうだね」

「……悪いんだけどな、明日の……──」


例え、数週間ぶりの電話で、数ヶ月ぶりのデートの約束をドタキャンされたって、文句なんて言わない。だって私は、大人の女だから。


「大丈夫だよ、別に」

「いいのか?本当に」

「いいよ」

「嫌じゃないのか?」

「うん」

「……そうかよ。じゃーな」


電話は一方的に切られてしまった。
果たして、何で私は土方さんを怒らせてしまったのだろうか。仕事人間な土方さんに、仕事を優先してもらいたかっただけなのに。

本当は、全然大丈夫でもないし、よくもない。我慢しているのに逆に怒らせてしまって、もう私はそれだけでくたくただった。
ただでさえ泣きそうなのに、もっと泣きそうになった。
私にはもう、涙までもを我慢する力なんて無かった。

だから私は、明日のためにと意気込んで買った新しい服を片手に、玄関前の全身鏡の前でへたりこんでいた。電話を取る前までは、ここで楽しい明日を想像していたのに。

電話を取る前と後の私のギャップに、私はまた悲しくなった。今までにないぐらい泣いた。
今日買ったばかりの真っ白なワンピースは、私が握っていたせいでぐしゃぐしゃになっていて、足元の絨毯は私の涙で濡れていた。

その時、玄関のドアがガチャリと開いた。そこには隊服を着た、ずっと会いたくて仕方なかった土方さんがいた。

すっかり泣きくずれてる私を、土方さんは大きなため息をついた後、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「一人で抱え込むな。我慢とかしなくていいから、我が儘、言えよ」


だって、面倒くさい女なんて嫌でしょ?
私がそう小さく呟くと、彼はそれまでよりも強く私を抱きしめた。


「名前に関わることなら、面倒事でも我が儘でも大歓迎だ」



面倒


20100731
耽溺さま提出
燐憐(あいす)



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