ふたりで歩く花畑。


繋がれそうで繋がれない、手。



「親方様から聞いていたんです」



そう言って目を輝かせるバジル君。




付き合って下さい、

少し年下のバジル君にほんのり赤い顔でそう言われたのが半年ぐらい前。


年上好きだったはずの私がすぐに答えを出したのが、その数秒後。


そして、今に至る。



彼は普段はイタリアにいる。


でも、週に何回か電話をくれる。
いつも、晩御飯が終わった後のちょうどいい時間にかかってくる。
でも時差があるはずだから、多分彼にとっちゃちょうどいい時間じゃない。


優しい彼なりの、気遣いなのだろう。



でも今日は、かなり久しぶりにバジル君が日本に来ている。


どこに行きたい?
と聞けば、
 
菜の花の花畑に行きたい、
と返された。


なんでも、"親方様"に昔から聞いていたらしい。





「バジル君…、楽しい?」


「はい!連れてきてくれてありがとうございます」


そういってニコッと笑うバジル君は本当に可愛い。



めったに会えない、って事もあるんだろうけど、私達は恋人らしい事を全くしない。


キスはもちろん、手を繋いだ事もない。
でももう付き合い始めて半年も経つんだから、手ぐらい繋いだっていいと思う。


さりげなく右手をバジル君の左手を近づけてみたけど、


見てください、あれ!


という言葉と共に、彼の左手は離れていってしまった。


こんな事の繰り返し。


私は小さくため息をついた。



「…名前殿?何かあったんですか?」



私がついた小さいため息にもすぐ気付いちゃう。



「ううん…何でもないよ」

そう答えれば、


「そうですか……でも、何かあったら遠慮なく言って下さいね?」


優しく微笑んでこう返す。


手繋いでなんて言えないなぁ…



「…またため息ついてますよ」

「え?」


なんでも、私はため息をついたらしい。


「だから、何かあったら言って下さいね?…まぁムリにとは言いませんが…」


ちょっと寂しそうな顔をするバジル君。

…ったく、可愛いんだから。






「ねぇ」


「なんですか?」


バジル君はすごく優しい顔でこっちを見る。


バジル君の左手のそばに右手を差し出す私。


「手、繋いでくれない?」


「てっ……、手…ですか?」


「そう、手。」


バジル君はフリーズしてしまった。


「…ごめん、嫌ならいい」


私が手を下ろそうとすると、バジル君がすごい勢いで反論した。


「いっいえ、嫌じゃないんです!全然っ…あの、むしろ嬉しいんですけど……その………」


そこまで言うと、少し上目使いで


「は…はずかしいじゃないですか………」


そう呟くバジル君。


可愛い、と言いそうになったけど、そこは抑えた。


「じゃあさ、」

「……はい」

「あくしゅだと思えばいいんじゃない?」

「あくしゅ……ですか?」








「これからもよろしく、っていうあくしゅ」







ほら、と言ってもう一度手を差し出すと、


こ、これからもよろしくお願いします、


と小さく呟いて、私の右手をギュッと握った。



「こ…、こんなに緊張するあくしゅは始めてです」



そんな事を言うバジル君を見てると、私まで恥ずかしくなってきた。



こんな事だと多分、キスも、その先も、大分後になるんだろうな…



でも、そんな事もうどうでもいい。



私もバジル君の手をギュッと握る。





どきどきあくしゅ





そんな純粋で可愛いバジル君が、




大好きです。




20090923 title:ひよこ屋




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