ル イ ラ ン ノ キ


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みずいろ傘
- 5000hit 感謝記念作品 -
 
雨の日は好きじゃない。髪は広がり、じめじめして、メイクは落ちるし、服は濡れる。おしゃれなレインコートを買ったって、ブーツみたいな長靴を買ったって、可愛い傘を買ったって、嫌いなものは嫌い。
 
雨宿りをしている私の目の前を、相合い傘をしながら通り過ぎていくカップルがいた。彼が傘を持ち、彼女は彼の腕にくっつき、幸せそうに雨の中を歩いていた。
 
私に相合い傘をする相手がいたとしても、雨なんか嫌いだ。悪いことはいつも雨の日に起きる。
母が出て行ったのも雨の日だったし、彼と別れたのも雨の日だったし、おじいちゃんが亡くなったのも雨の日だったし、財布を落としたのも、大怪我をしたのも、試験に落ちたのも、全部全部雨が降る日だった。楽しみにしていた行事もよく、雨で中止になる。
仕方ないか、私は酷い雨女なのだから。
 
灰色の空を眺め、灰色の雲のすき間から眩しい光が射し込んで大地を照らす。そんな映像を頭の中で作り出して祈ってみても、落ちてくる雨は一向に止む気配がなくよりいっそう降り続けて、このまま足場が川になって私は流されてゆくのではないかと思ってしまう。
 
今は使われていない、かつて飲食店だったお店の前で、私はひとり雨宿り。屋根が短くパンツスーツの裾はもうびしょ濡れだった。
就職の面接、うまく行かなかったな……。
私は足元を見遣った。新しいパンプスに水滴がいくつもついて、水玉模様に見える。
 
視界に男性の足が入り込んだ。顔を上げると、水色の傘をさした男が私を見下ろしていた。
 
「雨に好かれる人って、みんな雨雲のように暗い顔をしているのかと思ってたら、意外と明るい顔をしている人が多かったんだ」
「え……?」
 
男性は黒いスーツに、ストライプ柄の青いネクタイをしめていた。歳はいくつだろう。20代後半か、30代前半くらいだ。
 
「でも君は、すっかり天候にコントロールされた雨雲顔だな。はじめまして、雨女さん。俺は晴れ男です」
 
誰か、警察を。変な人がいます。
そう思った瞬間、彼は私の手首を掴み、水色の傘の下へ引き寄せた。
 
誰か助けて。男の行動が理解出来ず、警戒心しかない。振り払って「やめてください」と言い放つつもりだった。けれど突然、水色の傘が明るく照らされた。
灰色の空にすき間が出来て、隠れていた陽の光が降りてきたのだ。雨はまだ降っていたけれど、もうすぐ晴れるだろう。
 
「晴れ男……?」
 
彼が持つ強烈な力は、私が引き寄せる雨を跳ね退けるようだった。
 
「天気を支配出来る人間なんていないんだ。だから俺も別に“晴れ男”と言うわけではないんだよ。君の体質が湿度が高い場所を好むように出来ているか、君が単純に天気予報のお天気マークしか見ずに判断しているか。──お天気マークが太陽だったからといって降水確率がゼロとは限らないし、君が見たテレビ番組の天気予報では太陽マークだったとしても、他の番組では太陽と曇りマークだったりすることも、ある」
「それは……そうだけど」
 
なんで初対面の男に天気予報の見方に口出しされなきゃいけないの。不愉快窮まりない。
 
「もしくは、雨に好かれて雨が君を呼ぶか、かな」
「雨に好かれるなんて最悪……」
「そうやって毛嫌いするうちは雨に付き纏われるかもね。俺は雨も、好きだけど」
 
“好きだけど”を強調するように私の目を見据える。まんまと動揺してしまう自分が腹立たしい。
 
「雨なんか……気にしなければ雨女じゃなくなるっていうんですか? ばかみたい!」
「俺からしてみたら“雨女”などを信じている君がバカみたいだ」
「…………」
 
爽やかな顔立ちのわりにムカつく奴。いつの間にか私は彼のペースに引き込まれていた。「やめてください」と言い放つ勢いはどこかへ吹き飛ばされてしまった。
 
「雨女がいなくなると困るんだけど、雨を毛嫌いする人がいるのも困る。今の君は天候に操られているけれど、これからは君が行く先々の天候を操れるように……なれたらいいな」
 そう言って彼は私に水色の傘を渡した。「好きになってやってよ、雨も」
「え?」
 
小雨の中を走り去って行くその男は、突然吹いた春風のようでもあった。私の雨雲を吹き飛ばして、光を射してくれた。春は変な人が多いというけれど、あれは本当らしい。
 
見上げれば水色の傘。私は借りた傘をさしたまま歩き出す。10分もしないうちに空は青く変化して、太陽が顔を出した。
傘を畳もうとして気づく。傘の隅っこに小さく書かれた《青空工業》の文字と、サイトへのURL。──青空工業て確か、傘をつくっている会社だ。
宣伝かよ、と、私は思わず笑った。
 
雨女がいなくなると困るんだけど、雨を毛嫌いする人がいるのも困る
 
なるほど。そういうことか。
 
時折頭上に目を向けて、すっかり晴れた空を見遣る。やっぱり私は晴れが好き。だけど雨の日も、たまにはいいかな。
下ばかり向いていた顔を上げて、私はまた歩き出した。
 
それにしてもどうして彼は私が雨女だと気づいたのだろう?
 
≪青空工業≫↓クリック
 URL:http://ruirannoki.jp/アオゾラ/
 

end - Thank you

お粗末さまでした。130503
編集:221231


《あとがき》
青空工業を宜しくお願い致します。大変遅くなりましたが、5000hit、ありがとうございました!!

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