ル イ ラ ン ノ キ


 なくした手袋

 
「さみーなぁ」
 
学校の帰り道。分厚いコートを羽織っても突き刺すような寒さを感じる。手袋もマフラーも欠かせない。
 
「ねぇねぇ手袋買ってよ」
 と、斜め後ろを歩く彼女が突然そう言った。ストレートでさらさらの髪が冷たい風に靡いている。
「手袋持ってるだろ? ついこのまえ買ったって言ってたじゃん」
「ゆーくんが買ってくれたやつがいいの」
「ブランド物?」
「なんでもいい」
「じゃあ軍手」
「それでもいい」
「なんじゃそら」
「手が寒いのです」
 と、彼女は俺の横に移動して両手を目の前に突き出してきた。
「手袋しなさい。持ってるだろ? 朝つけてるの見たぞ」
「なくした」
「まじで?」
「私、嘘、つかない」
「なんでカタコトなんだよ!」
 と、思わず笑った。
 
彼女はコートのポケットに手を突っ込むと、寒さで鼻を赤く染めた顔で俺を見上げた。
 
「これでこけて顔面打ったらゆーくんのせいだから」
「こけなきゃいい」
 と、彼女に歩幅を合わせた。
「どんくさいの知ってるくせに」
「じゃあポケットに手ぇつっこむな」
「手が寒いんです」
 彼女はまた俺の前に両手を広げて見せた。
「ったく。ほれ、俺の貸してやるから」
 
俺が手袋を外して彼女に渡すと、彼女はそれを受け取ってしばらく眺めた後、自分の通学鞄に放り入れた。
 
「おい、なにしとんねん」
「なくした」
「はぁー?」
「手が寒いのです」
 と、目の前で手をひらひら。
「……なに、手ぇ繋ぎたいの?」
「…………」
 黙り込んだままコクリと頷いた。
 
く、くそかわいいな!!
不器用すぎる彼女に心を鷲づかみにされる。はじめから言えばいいのに、回りくどいにもほどがある。
 
「素直に言えよ……。つか最初の手袋買ってってなんだよ」
 手をつないでやると、「こっちも」ともう片方の手を出してきたので両手を繋いだ。
「なんだこれ」
 両手を繋いで歩くバカップルはいない。思わず立ち止まると、彼女は俺の両手をぐいと引き寄せて、つんのめった俺にキスをした。
「──?!」
「クリスマスプレゼントです」
「……いや、あの」
「というわけで手袋買ってください」
「おいこらマジで無くしたのかよ。手袋欲しさのキス?」
「…………」
 顔を赤くして目を逸らされた。
「ただの照れ隠しじゃねぇか」
 おかげでこっちも赤面だ。
「ゆーくんて去年はぼっちのクリスマスだったんでしょ?」
「去年も一昨年もその前もだよ。周りはみんな彼女持ち。俺だけクリぼっちだったわ」
「今年は良かったね、かわいい彼女ができて」
「自分で言うなよ」
 
彼女はヘラヘラと笑って、赤鼻のトナカイを俺の名前に置き替えて歌った。──真っ赤なお鼻の彼氏さんは、いつもみんなの笑い者。でもその年のクリスマスの日、かわいい彼女に言いました。寒い冬にはピカピカの、かわいい手袋プレゼントする♪
 
「替え歌うっま。でも赤鼻はおまえな?」
 と、彼女の鼻をつついた。
 

end - Thank you

お粗末さまでした。151225
修正日 220427

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©Kamikawa
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