企画 | ナノ


「……あ」


寝ている。誰が?臨也さんが。

ソファに座って、静かに、寝ている!
うわー、うわーっ、珍しい!珍しい!
わくわくしながら、そろそろと足音を立てないように近付く。むむ、抜き足差し足って、結構難しいぞ。
臨也さんの目がいつ開いてしまうかと心臓がばくばく音を立てるけれど、意外にも臨也さんは目を覚まさない。

「……っ、…」

ごくり、と息を呑む音すら聞こえてしまっているような気がする。
なんだか猫に近付いている時みたい。頑張って気配を殺しながら、ついに臨也さんのすぐ横まで、近寄る。

(や、やった……!)

意味もなく感動した。でも、私がこんなに近付いても起きないんじゃあ、きっと疲れてるんだろうなあ。臨也さんは感覚が鋭いから、いつもは私が近寄ってもすぐばれてしまう。人が脅かそうと思って近付いているのに、振り向きもせずに「なまえ、何か用?」と当ててしまうのである。ううう、そのせいでこっちは何回びっくりしたことか!
…私が分かりやすいだけかもしれないけど。

(……かっこいいなあ)

整った顔を眺める。かっこいい。かっこいい、のだ。
いつもあんなに意地悪でも、チェシャ猫みたいににやにや笑っていても、こういう時には――完膚なきまでにかっこいいのだ。それが、いけないと思う。
だって。だって、意地悪なのにかっこいいから。私は、どうしていいのか分からなくなってしまう。自分が怒っているのか、それとも、どきどきしているのか。

(ずるい…)

むくむくと妙な気持ちがわきあがってきた。
そうだそうだ、臨也さんはずるい!意地悪なくせにかっこいいなんて、ずるい!
私ばっかり、臨也さんが大好きで――、こんなのずるい!不公平だ!

ばふっ、と乱暴にソファに腰掛けた。臨也さんが起きたって構わない、普段からの仕返しだ!と思ったけれど、臨也さんは起きなかった。
起きてる間は、どうせ私は何も出来ないから。だから、臨也さんが眠っている間に、意地悪をしてやるのだ!

ぎゅうっと腕に抱き着いて、


「…好きー!」


小さく叫ぶ。
ふーんだ。起きてる時になんか、絶対言ってあげないんだから!こんな風に抱き着いたりも、しないんだから!
ふふ。どうだ、意地悪だろう。

ほんの少しの仕返しがとても楽しくて、小さく笑った。









「……………何だよ今の…」


実は最初から起きていた男が、自分の腕に抱き着いたまま眠る少女に真っ赤な顔で突っ込んだことを、誰も知らない。













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