企画 | ナノ


「へー!まだちゅーしてないんだー!」
「ふわあああっ!?か、狩沢さん…っ!」

ワゴン内に声が響く。
声が!声が大きいです!わたわたする私に「あ、ごめんごめん」と笑って、狩沢さんが自分の頭を小突く。
は、恥ずかしい…!遊馬崎さんも、門田さんだって居るのに…!

「やー、ちょっとビックリしちゃったよ。だけど、そうね、シズシズなら仕方ない気がしてきた」

くすくすと狩沢さんが笑う。少しだけ呆れたような優しい声に、気恥ずかしさが募って顔が熱くなる。
私の恋人の平和島さんは、とても優しい人だ。同時に、とても初な人らしい。
手を繋ぐことはあるけれど、き、キスとかは、まだ…。

(うう、恥ずかしい…、って何話してるんだろう私…!なんでこんなことに…!)

今日はただ、狩沢さんに誘われて遊びにきただけだったのに。質問攻めにあって、あっという間にいろいろ話してしまった。
見かねた遊馬崎さんと門田さんが助け船を出してくれる。

「狩沢、もうよせよ」
「そうっすよ狩沢さん、なまえちゃんがかわいそうっすよー」
「ゆまっちとドタチンの馬鹿ッ!ここはなまえちゃんにアドバイスをあげるところでしょ!」
「ぅえっ?」

二人の制止を完全に無視して、狩沢さんが私の手をがっちりと握る。や、やっぱりいつもより目が、目が爛々と…!

「あのねなまえちゃん。恋愛は待ってちゃだめなの」
「は、はいっ」
「だからたまには自分からいかなくちゃ!なまえちゃんから、シズシズに!」
「は……ええっ!?わ、私っ」
「大丈夫!なまえちゃんならいけるよ!」

だからほら、頑張って、ちゅー!
真剣な表情でそんなこと言われても。私だって結構いっぱいいっぱいなのに!
呆れ顔の二人が後ろで話している。

「お前が恋愛ってな…。この世で最も信頼ならねえ助言だな」
「いくらなんでもそれはちょっと」
「ゆまっちがこういう方法を信じずにどうするの!」
「いやいやいや。相手は静雄さんっすよ」
「じゃあドタチン!なまえちゃんからいきなりちゅーされたらどう思うの!?」
「………。ばっ…馬鹿言うんじゃねえ」
「あー!ドタチン今想像したでしょ」
「うわー!門田さん、うわー!」
「てッ…てめぇらあー!」





――――――



(…どうしよう)

自分から、き、キス…。
考えただけで、顔がどんどん熱くなるのが分かる。私に、できるのかな。
狩沢さんに言われたからって、必ずやらなきゃいけない訳じゃない。…でも。


――待ってちゃだめなの!


(…それは、確かにそう、かも)

隣の平和島さんをちらりと見る。…かっこいいなあ。胸の辺りがきゅうっと縮んで、鼓動が早くなる。
近づきたい。もっと、もっと。やっぱり、自分からいかないとだめなんだ…!

「…あ、あのっ」
「? どうした?」
「あ、え、えっと、その」
「…大丈夫か?なんか顔赤いぞ」
「…!!」

言い出したはいいものの何て言ったらいいか分からずにどもってしまう。心臓がばくばくと、痛いくらい暴れだした。心配してくれた平和島さんが手を延ばして、私の頬に触れる。ぼっ、と音が出るほど顔が熱くなって、
伝わる体温が。優しい指が。ぐるぐる回る熱さに押されるように体が動いて、

「――…っ!?」

ほんの一瞬だけ。それでも、確かに触れた唇。
平和島さんが目を見開いて固まってしまった。心臓はもう痛みの塊になって、私の体温を上昇させ続ける。

「っご、ごめんなさいっ…あの、私、あんまり慣れてなくて、じゃなくてっ、あの、わ…私っ、平和島さんと、もっと」

――こういうこと、したい、です。
言い終わる前に抱き寄せられた。肩口に額を乗せるような格好の平和島さんの耳が赤い。もういっぱいいっぱいで今すぐ気絶しそうな私の耳に、ぽつ、と小さく聞こえた。

「…ごめんな」
「っ、あ、は…」
「我慢、してただけなんだ。なまえを傷付けちまうんじゃないかって。だから、その、…ありがとう。すげえ、嬉しい」
「……っ」

頭が上手く働かない。ええと、つまり、何をもって成功とするのか良く分からないけれど、成功、したのかな。よ、良かった…!
そろそろと、平和島さんの背中に手を回して――


ぐるん。


「…じゃあ――もう、我慢しなくて、いいんだよな?」


いつの間にか、平和島さんが「上」にいた。
あ。あれ?あれ?なんか、ちょっと、違うような、

「へ…平和島、さ」
「なまえ。…好きだ」

熱っぽい獣の目にぞくりと震える。

…でも。この獣になら、食べられてもいいかもしれない。
二度目のキスに、そっと目を閉じた。













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