企画 | ナノ


空っぽになった城に、哀れな兎の鳴き声が、甘く。




「ひあっ、ん……っ!」


主を守るはずのものだったこの城が檻と化したのはいつだったか。
細い体がびくりと跳ね、白い耳が揺れる。静雄に組み敷かれ、なまえはなすすべも無く嬌声を上げていた。
涙でゆらゆらと揺れるなまえの視界の中で、静雄が柔らかく笑った。


「……なまえ」


優しげな、柔らかい笑み。惨劇を引き起こし、新たにこの檻の主となった青年が嬉しそうに笑う。揺れる白い耳に唇を寄せキスを落とし、囁く。


「愛してる」
「ふ、あ…」
「なあ、なまえ…俺を愛してくれてるよな?俺に暴力を振るわせるような、あんなひどい奴らより、俺が好きだよな…?」
「っ、ん……しず、しずおさんっ…好き、すき…っ」
「……っはは、すげえ嬉しい…」


甘い囁き。
この言葉がどれだけ異常なものか、なまえにはもう分からない。潤んだ瞳は静雄しか映さない。過ぎる快楽で泣きながら、哀願するように、好き、好き、と繰り返す。

壊れるしか無かったのだ。白ウサギであるなまえは女王を守るために存在したというのに、その女王は静雄によって「排除」されてしまった。
なまえの世界には――もう、静雄しかいない。


「なまえ…」
「ん…っ」


瞳を閉じてキスを受け入れる。息ごと呑まれてしまうような、深いキス。零れる吐息はひどく甘い。たどたどしく応えれば、押さえつける手が緩んで指が絡んだ。

静雄の愛に繋がれて、溺れて、溶かされて。この城に恐ろしい程の鉄の匂いが溢れていたことも、女王のことも、今のなまえは憶えていないのだろう。静雄の愛が歪んでいることにも、異常な言葉にも、自分自身が壊れてしまったことにも――気付くことはもう、ない。


「――…愛してる。俺が、絶対守ってやるから…」
「…わたし、わたしもっ、あいして、ます…静雄さん…っ!」


――歪な愛で満たされた檻の中。
兎は確かに、幸せだった。












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ナユさまリクエスト「『こわれるおしろ』の続き」


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