企画 | ナノ


愛しい愛しい愛しい愛しい。


「……やっ…」

壁を背にして震える少女。愛しくて愛しくて堪らない――臨也の、妹。
ゆっくり近づきながら、臨也は優しく妹の名前を呼ぶ。

「…どうしてそんなに怖がるの?なまえ」
「ひ、ゃ…おにい、ちゃ…」
「『臨也』。…だろ?」

なまえの喉が鳴る。臨也は目を細めた。
何よりも何よりも大切ななまえ。そのなまえの態度に変化が訪れたのは、最近のことだ。
なまえが涙を浮かべて首を振る。

「ッ…いや…!こんな、こんなの…おかしいよ…!」
「…ああ、可哀想に…やっぱり、誰かに誑かされてたんだ」

確信。なまえは『誰か』に騙されて、そのせいでこんなにも怯えているのだろう。なまえが自分からの愛を拒絶するなんて、絶対に、あり得ない。
一体誰が――そこまで考えて直ぐに止める。
誰だろうと構わない。なまえに手を出した奴は全員消さなくては。胸の内を舐める黒い火が勢いを増した。
燃え盛る情動を隠すように、臨也は笑う。口を開こうとした瞬間、場違いなメロディが響き渡った。

「ひッ!?…ぁ…!」
「…………」

がつん。鈍い音を立て、なまえの手から携帯電話が落ちて臨也の足元に転がった。チカチカと光るイルミネーションは、着信を知らせる時のもの。なまえが蒼白になる。
無言で拾い上げて画面を開いた。液晶の淡い光が、臨也の歪んだ笑みを照らし出す。

「………ふうん」
「っ……あ…ぅ…」
「あ、そうだ…なまえには言ってなかったけどさ」

携帯電話から手を離す。支えを失った機械は再び鈍い音で床に転がった。
未だに震動し続けるそれを――臨也は思い切り踏み砕く。
くぐもったバイブレーションの音が、絶命したように途切れた。

「俺、携帯を踏み潰すことが趣味なんだ」
「………………!!」
「ああ、愛してるよ、なまえ…」

細い身体を抱き締める。
他の誰にも渡さない。可愛い可愛い俺のなまえ。

「ひぅ…ご……ごめんなさい、ごめんなさいっ…」
「こんなに震えて…大丈夫?はい、顔上げて」
「ん……っん、んう…っ!」

この声も、髪も、甘い肌も、縋り付いてくる指も、全部自分のもの。
―――あ、アイツを消しておかなきゃ。
首筋に赤く印を付けながら思う。
なまえには、自分がいれば良い。

「…っ…ふ、あ…」
「なまえ。『臨也』、だよ」
「ひく…っい、いざやぁ……っ!」
「っ…そう、いい子だね…」

ぼろぼろ泣き出す目元にキス。ぷつん、とボタンの外れる音がやけに大きく聞こえた。

「……愛してる」

呪いのように呟く。
薄暗い部屋の中で、音も立てずに影が重なった。











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