企画 | ナノ


「こっち来いよ、なまえ」
「い、いやです…!」

ぱしゃん、お湯が軽く跳ねて音を立てる。静雄と向かい合うように、なまえは湯船へと沈んでいた。顔が赤いのは多分、のぼせたからではないだろう。
静雄が溜め息を吐く。

「…そんなに照れんなよ。いつもあんだけ――」
「や、ば、ばか…っ!」

顔が熱い。静雄の言葉を無理矢理遮り、なまえは再びお湯に沈んだ。
――恥ずかしい…!

確かに「そういうこと」だってしているけれど、一緒にお風呂というのは、また別の話なのだ。お湯が乳白色なのが唯一の救い。

「(……くらくら、してきた…)」

緊張でいつもよりのぼせるのが早い気がする。赤い顔に気付かれないよう、ちらりと静雄を窺った。
傷んだ金髪。その髪先から滴が落ちて、首筋を伝っていく。不安が胸を過り、なまえは小さく声を上げた。

「……あ…」
「…?どうかしたか?」
「…あ、あの、静雄さん…大丈夫ですか…?」
「…あー、噛んだ痕か。平気だよ、全然痛くねえし」
「そ、そうじゃなくて…!貧血、とか…」
「いや、ねえ」
「えっ…!?」

なまえがいくらか吸血の量を少なくしているとはいえ、三回以上の吸血は男性でも貧血になる可能性がある。平然としている静雄はひょっとしたら、なまえよりも怪物然とした存在なのかもしれない。

「…すごい…」
「ありがとよ。まあ…んなことはいいから、とにかく来い。こっち」
「え、ひゃ…っ!」

いきなり手を引かれ、静雄の胸に飛び込む。あまりのことに顔から火が出そうになるが、抱き締められて動けない。静雄が嬉しそうに笑った。

「よし」
「……………!!」

声も出せないなまえを抱き締めて、静雄は甘えるように鼻先を首筋に寄せる。びく、と体が強張った。吐息が耳朶を擽る。

「ぁ、…や…」
「……なあ、なまえ」

うるさい鼓動の音はどちらのものだろう。くらくらと目眩がひどくなって、力が抜けていく。

「…もう一回だけ、いいか?」
「………静雄さんの、ばか…!」

――こんなの、ずるい…!
低く甘い声に背筋が震える。意地悪く笑う静雄の首に、返事の代わりに噛みついた。



(沈んだのはだれ?)






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