企画 | ナノ


「きょーへい!膝枕して!」
「…は」

麗かな春の日。唐突ななまえの発言に、門田はページを繰る手を止めた。思わず顔を向ける。

「…膝枕ってな、お前…」
「いいじゃないそれくらい、ね、やってやって!」
「いや、逆だろ、普通」
「…えっ、だ、駄目!それは駄目!」
「別にやって欲しくて言った訳じゃねえよ」

思ったままを口にしただけだが、何故かなまえはひどく狼狽して首を振った。呆れて返すと、それなら、とまた催促を始める。

「ね、ね、いいでしょ?」
「男の膝枕なんて面白くないだろ。硬いぞ」
「………もう、いいっ!」
「…おい、なまえ?」

門田の言葉に、なまえはみるみるうちにふてくされてそっぽを向いてしまった。何がなんだか分からないまま読書へ戻ろうとするが、集中出来ずに諦める。
なまえはクッションを抱き締めて、門田に背を向けている。完全に拗ねているようだ。前々からなまえには少しわがままなところがあるが、今回は一体どうしたというのだろう。
――どうしても、膝枕じゃなきゃ駄目なのか?

「……なまえ。プリン、食うか?」
「いらない!ばかっ!」
「…………」

沈黙せざるをえない。
いつもあれだけ食べたがるプリンでも駄目らしい。どうしても、膝枕でないといけないようだ。
…何で、こんなわがままを?
本に目を落としたまま考えていると、ふと、依然言われた言葉を思い出した。

「ドタチンってさ、ホントなまえちゃんに甘いわよね」

ニマニマと笑いながら。からかうように、狩沢は言ったのだ。

「いつもなんだかんだ言ってわがまま聞いてあげてるじゃない?プリンは必ず買ってあるし!あ、なまえちゃんを責めてる訳じゃないよ?むしろ可愛いくらいよね」

―だって、なまえちゃんがわがまま言うの、ドタチンに甘えたい時か、構って欲しい時だもんね。


「―――……」

夢から目が覚めたような感覚。瞬きをひとつ。
ああ、…なるほど。

――構って、欲しいのか。


「なまえ」
「!」

声をかけると、ぴくりと背中が震えた。不機嫌そうな表情がこちらを向く。
門田は少し笑って、ぽん、と膝を叩いた。

「…来いよ。膝枕、してやる」
「……!」

なまえの顔がぱっと輝いた。しかしその瞬間笑顔の門田と目が合って、一気に頬が赤くなる。照れを隠すように、ふてくされた表情のまま、やや乱暴に頭を預けてきた。

「……硬い」
「だから言っただろ」

不満を呟くが、首筋まで真っ赤になっていては可愛らしく見えるだけだ。ゆっくり、ゆっくり、あやすように何度も頭を撫でてやると、ふにゃりと笑った。

「…えへへ」
「悪ぃな。寂しかったか」
「もう寂しくないから、いいー」

嬉しそうに甘えてくるなまえ。もしかしたらまた狩沢にからかわれるかも知れないな、とぼんやり思った。

…まあ、それでもいいか。



(プリン食うか)
(食べる!)






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