企画 | ナノ
うるさい心臓を無理矢理押さえつけて、なまえはゾロを待っていた。
時刻はやはり放課後。人に見られる訳にはいかない。どくどくどく。落ち着こうとすればするほど、心臓は暴れる。深呼吸をひとつ。
こうも緊張するのには訳がある。校内追いかけっこからずっと、なまえは自分の調子を取り戻せていない。あの時なんてゾロの目の前で泣いてしまった。…今思い出しても、恥ずかしくなるというか、悔しくなるというか。
とにかくそれからというもの、いつも通りに過ごせない。生徒達にはどこでばれたのか「ゾロの彼女」としてなんだか微笑ましく見られるし、当のゾロを相手にすると恥ずかしさでろくに喋ることも出来ないし、キスにはいつまで経っても慣れない。
まとめると、なまえにはこの状況が非常に面白くないのだった。ゾロに、いいようにされっぱなしなのが気に食わない。生来、負けん気が強い性格なのだ。
―私ばっかり翻弄されて、ロロノアはずるい!
そこで、なまえなりに作戦を練ってみることにしたのだった。内容は簡単なもの。「自分からキス」、それだけ。これなら少しはゾロも驚くだろうし、いつまでも翻弄されっぱなしではない、という言外の主張にもなるかと思ったからだ。
ばくばくばく。心臓を押さえて言い聞かせる。
絶対、ロロノアを、びっくりさせてやる!
「………なまえ?」
「ふわあっ!!」
「…何してんだお前」
「ううううるさい!」
言ったそばから自分がびっくりしてしまった。
廊下にゾロが立っていた。明らかに呆れている。今に見ていろ!
怪訝な顔のゾロの前に立って、そして――気付く。
「………あ」
「あ?」
身長が、足りない。
爪先立ちで届くくらいならまだ良かったが、これは駄目だ。明らかに。なんたる不覚!
しかし、ここまで来て引くわけにもいかない。
「……っ、ロロノア!頭下げろ!」
「はあ?」
「いいから早くしろ馬鹿あ!」
「………ったく」
渋々ゾロが身を屈める。これで届く距離だ。ぎゅうっと握った手に力を込めて、目を瞑る。
「おいなまえ、一体なん」
ちゅっ、
唇に、軽く、触れるだけのキス。
ゾロの目の前で、真っ赤な顔のなまえが、勝ち誇ったように言った。
「ど…どうだロロノア!びっくりしただろ!」
「……。……くく」
「…え」
「やるじゃねえかなまえ」
「へ?……あれ?」
ニイ、とゾロが笑う。追いかけっこの末に見た、あの意地悪そうな笑み。…ちょっと待て、なんだか、違う方向に。
たじろぐなまえに、どこか嬉しそうにゾロが告げた。
「…上等だ。意味、分かってんだろうな?」
どうやら、なまえが翻弄出来るようになるには、まだまだ時間がかかるようだ。
(ち、違……やだあああ!)
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