小説 | ナノ




――麻薬のようだ、と思う。


「…門田さん?」

他の誰のものでもない、この少女の声だけが、門田を捕らえてはなさない。

――これが無いと生きていけないって感覚は、きっとこういうもんなんだろうな。

まだどこか幼さの残る横顔を見つめながら手を伸ばす。ほのかに色づいた頬に指先が触れると、少女はくすぐったそうに笑った。

「…なまえ」

名前を呟いた瞬間、どろり、と門田の中で何かが揺らめいた。それを感じながらも、門田は少女に触れている手を離そうとしない。自らの中で蠢く、この濁った想いが、明らかに常軌を逸したモノであると知りながら。

「…なんだか、門田さん、変ですよ?」
「そうか?」

くすくすと柔らかく笑うなまえに答える。頬を撫でていた手を緩やかに髪へ動かすと、なまえは幸せそうに目を閉じた。

――ぞく、ん

「…っ」

背徳と欲と愛情とが混ざりあった訳の分からない感情が背筋を震わせて、門田は僅かに息を詰めた。
胸の想いが、それに呼応したようにざわざわと動きを大きくする。

なまえが、なまえのすべてが、ほしい。
そう思ったのはいつだっただろう。歪んだ想いはあっという間に心を侵食し、当然のように胸の奥へ棲みついた。
表面には決して出さないようにしてきた。これが歪んだモノであると知っていたから。しかし――歪みを抱えていた時間が、門田はあまりにも、長かったのだ。
「普段通り」の自分と、「歪んだ」自分の境界が、薄くなる。

不安で仕方がないのだ。こんなにも無防備な少女が、いつか、奪われてしまうのではと。

――なまえを守るのは、俺だ。

…そうだ。「外」は危ない。なまえを傷つけようとするものも、奪おうとするものも無数にある。
それなら――いっそのこと、

「繋いじまうのも、いい、か…」
「…え…?」
「ああ…何でもねえよ」

閉じ込めてしまえば、なまえは俺だけ見てくれる。どんな顔をするだろう?きっと、誰にも見せたことの無い表情を、俺だけに。


愛しい少女の頬を撫でる。普段通りの自分のまま、門田は満足そうに笑みを浮かべた。



ミヒツノコイ


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