小説 | ナノ


今日は星降りだってさ。妹がそう言った。
初夏、晴れたならば緑美しい風景が楽しめただろうが、窓の外は灰色にけぶり規則的な雨音。そうか、今日は、星降り、か。
星降りとは名の通り、星の降る天気の事だ。雲の合間から白緑色の星粒が数多も落ちてきて、きぃん、と高い音を立てて跳ねる。妹は、その音が嫌いなようだった。(だって、気になって眠れないじゃない?)
この間の星降りは何時だっただろう。ふと考えてみると、頭の中で、きぃん、とあの音がした。して、直ぐに消えた。思い出せないということは、私も妹のように、星降りに関心の無い人間なのかもしれなかった。

星降りは、それは美しい景色だ。初めて、降っているのを見た時は(記憶が断片しか無いほど幼い頃だが)、息が止まった。ちいさなちいさな星粒が降って降って、家々の屋根で跳ねて(きぃん)、跳ねて(きぃん、)。だが、美しいのは降っている間だけだ。その間に、多分こんぺいとうみたいな形(と私は思っている)は削れてしまって、ただの丸い粒になる。そして地表へ辿り着いたその瞬間、星は光るのをやめてしまうのだ。朝になって、外に出ると、庭には白けた粒がたくさん転がっているだけで、その粒も、踏めば簡単に砕けてしまう。勿論、きぃん、なんていう音も無しに。

いつの間にか慣れてしまったのだ。星降りの美しさに。きぃん、が終わって、朝になれば、星粒の残骸を踏み締めて、いつも通りの生活が始まる。呼吸のような一連の流れ。目を輝かせたのも、一瞬。
窓に映る私の顔を眺めていると、妹が口を開いた。一体、あいつらは何を考えて落ちてくるのかしら。ここは、そんなに価値のあるところ?妹は、時折年齢に似合わず幼いことを言う。
空の上で、いつまでも光っていれば、星だって幸せでしょう?わざわざこんなところまで落ちて来て、私達はいい迷惑だわ。

愚痴を背に、灰色の雨雲を見上げる。星、星。誰もが憂鬱に過ごすこの雨天の遥か彼方、星達は今か今かと、地上への憧れを胸に、星降りの瞬間を待ち侘びているのだろうか。きぃん、最期に音を立てる時、彼らは、何を思うのだろう。しあわせ、なのだろうか。
―――きぃん、
頭の中、震えるようなあの音が、した。

雨は未だ、止まない。彼方に思いを馳せて、私は、星降りを心待ちにしている。



流星群


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