小説 | ナノ
「いざ、いざやさんの、へんたいっ!」
「あはははは!よく似合うねえ」
「ううー…!」
こんな、こんなの、ひどい!さも愉快そうに笑う臨也さんの前で、警戒しつつも泣きそうになる。だから、褒められたって嬉しくないって言ってるのに!
じりじり後ずさると、体の後ろでふらふらと尻尾が揺れる。この間より細く長い――猫の、もの。
二回もこんな体験するなんて思わなかった。油断したわたしのばか!
「も、戻らなかったらどうするんですか!」
「だからさ、俺が飼ってあげるって言ってるでしょ?はい首輪」
「………っ!こ、こ、こないで!」
臨也さんがにやにやしながら近付いてくるのを見て、びびびと毛が逆立った。思わず手で耳を庇う。わあ、ふわふわですべすべ…じゃなくて。
壁際に座りこんで、思い切り身を縮めた。もう、耳も尻尾も触らせないんだから!
「……ほんと、素直じゃないね」
「? ぇ、あ…」
ふ、と臨也さんの笑う気配がして、指がわたしの顎にかかる。予想外の場所を触られて力が抜けたところを、そのまま、くいと持ち上げられた。
つまらなそうな、ふてくされたような、そんな顔をしながら、臨也さんがわたしの喉をくすぐる。
あ、あれ、あれ?なんか、きもち、いい…?
「…ん、んんー…」
「飼ってくださいって言えばいいのにさ。なんでこうも可愛くないのかな」
「――…ん…」
「飼って欲しい、くせに……っと、はい、できた」
「んにゃ…、あ、え?……!!」
ごろごろと喉を鳴らして、気がついたら、首に何か巻かれている感覚。さあっと血の気が引いた。く、くび…わ…。喉撫でてる間につけるなんてひどい!ずるい…!
にっこりと満足そうに、臨也さんが笑う。
「さてと。なまえ、鳴いてごらん?」
今回も、それしか道は無いようです。
愛猫候補