小説 | ナノ


かつっ、

甲板が小さく音を立てる。船首の背中がぴくりと動いて、聴こえていた鼻唄が止んだ。
風に吹かれた麦藁帽子を押さえ、ルフィがこちらを振り返った。
よく晴れたいい日だ。

「なまえ!」
「おや。靴音で分かってしまうのか」
「そりゃあ分かるさ、船長だから」

にっ、と胸を張った姿に低く喉を鳴らして隣に凭れ掛かる。何故笑われたか分からないのだろう、ルフィが首を傾げた。
頭上にクエスチョンマークが見えるようで、口元が緩く持ち上がる。

「なあなあ、今日は何の歌教えてくれんだ?」
「そうだな、何がいいかな?ルフィは歌が上手だから、教えるのも楽しいよ」
「! ……にしし」

きらきらと好奇心に輝く黒い瞳を見つめ返してそう言うと、くすぐったそうに笑う。その頬がほんのりと赤くなっている。
ああ、実に、可愛らしい。

―ルフィは、純粋だ。
疑うことも知らないようなこの少年はきっと、気付いていないのだろう。影がその純真な心を、体を、侵食しようと手を伸ばしているのに。
ぞくり。高揚感がなまえを襲う。

「くっく…、決めた。今日は、夢見る影の歌だ」
「カゲ?」
「そう、影。少し難しいが、ルフィならきっとすぐ覚えてしまうだろうね――」


―おれ、なまえの歌、好きだ!

歌うたいのなまえを仲間に引き入れた時、ルフィはそう言った。

惹かれた。どうしようもなく。
仕方ないことだ。影はいつだって光に焦がれる。手を伸ばし、捕らえて、輝きをすべて飲み込んでしまおうと。

――ああ、きっと君は染まってはくれないのだろうな。


眩しすぎる光だ。影が消えてしまう程に。
それでも。だからこそ、手を伸ばさずにいられない。

「…楽しいよ、ルフィ」

聖域を侵そうとする快感が喉を震わせ、旋律となって溢れ出す。

いつか光を手に入れる日を夢見て、なまえは目を閉じた。



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