小説 | ナノ




どうしてこんなことになったのだろう。


びちゃっ、と濡れた音が聞こえる。噎せるような鉄の匂い、その中で、なまえはがたがたと震えていた。

「ふーっ…ふ、…っ…」

城の中は惨状だった。あれほどいたトランプ兵は瞬く間に一掃されて一人も見えない。震えの止まらない腕で必死に口元を抑えなまえは喘ぐ。女王は無事だろうか?白ウサギの自分が女王を守らなければいけないのに、身体は言うことを聞かなかった。
――しずかに、しずかにしなきゃ、みつかっちゃう……!
見つかってはいけない。見つかるということは、つまり、あの男に。
――おねがい、こないで、こないで…!
ぎゅうっと閉じた瞳からぼろぼろと涙がこぼれた、その時。



「………お、いた」


「………!!」
ひゅっと喉が鳴る。物陰から顔を覗かせたバーテン服の男は、嬉しそうに声をあげてなまえを見つめた。

「あ…ひあ……っ」

「どこ行ってたんだ…?心配したじゃねーか…ったく、探しても探しても見つかんねえしよぉ、一体ここが何処なのかもわかんねえしで大変だったんだぞ?」

「、や……」

何を言っているのだろう。なまえはこの男に会ったことは無いのだ。しかし男は嬉しそうに嬉しそうに、笑みまで浮かべてなまえに話しかける。逃げたくても萎えた足は動かない。

「…女、王、は……?」
「あ?女王?…っと…そんな感じの奴なら、さっき」

男は肩越しに指を指した。指した先、あの、赤い服は。

「…いや、…いやああっ…!」
「…っあー、俺今すげえ嬉しい…」

男は離さないとでも言うようになまえを抱き締める。強い鉄の匂い、男は嬉しそうに嬉しそうに。

「捕まえたぜ、なまえ」




――――――


「俺なあ、何か道に迷っちまったらしくてよ、気付いたらこの国にいたんだよな…まあ、んなこたどうでもいいか」

「やっ!やら、いやあ、あっ…!」


ぐちゅぐちゅと鳴る卑猥な水音。
何も知らなかったなまえの内を乱暴なまでに突き上げて、男は喋ることを止めない。嫌々と首を振るなまえには、既に何度も白濁が注がれていた。


「そんでその時に、なまえが走ってくのが見えて」

「ひう…!も、やらあっ、らめ…!!」

「っ…何でだろうな、何かすげえ欲しくなって、捕まえちまった」

「きゃああぁっ!」

ず、と奥を突かれて背がしなる。は、は、と短い呼吸を繰り返すなまえの白く長い耳にいとおしそうに唇を寄せ、囁く。

「…静雄。静雄だ、俺の名前」
「っ、ひく、ん……っ」
「な、呼べよ、なまえ…」
「あ、っ…ごめ、なさい、ごめんなさい…ゆるして、しずお、さん…!」
「………っ!!」

必死に哀願するなまえに、静雄の身体がブルリと震えた。質量を増す自身に小さく悲鳴を上げ、思わず静雄にしがみつく。絶頂が近い。

「ふや、あ……っ!もう、や、らめえっ…きゃうう!」

「…好き、好きだ、なまえ…」

遂に意識を飛ばしたなまえに、静雄は幾つもキスを落とす。歪んだ告白は、果たして少女に届いたのだろうか。



斯くして、哀れなウサギは、捕えられてしまった。



つかまるうさぎ
(絶対、離さねえ)


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