小説 | ナノ


――全部切ってあげる。



「甘楽ちゃん、甘楽、ちゃん…」

震える指。私のコートを弱々しく握って、縋る。
触れることを望んでいながら、同時にその事にひどく怯えている、そんな手つき。潤んだ瞳に微笑む。

「…どうしたんですか?なまえ」
「…おねがい…き、きら…嫌いに、ならないで…っ」
「んふ、変なこと言うんですね? 私がなまえを嫌いになるわけないじゃないですか!」
「……ほんと…?」

きゅ、と指先に力が入り、こちらを窺う瞳が揺れる。
――ああ、可愛い、可愛い、可愛い…!
ぞくぞく。痺れるくらいの感情が全身を貫く。抱き締めると、ひく、と喉を鳴らして泣き始めた。

「ひっ、う…」
「……一人は、いや?なまえ」
「…いや、いや…っ一人は、や…っ!」

震える体。少しでも離れることを恐れるように、私の背中に回った手に力が増す。
――この瞬間。なまえが私に、私だけに縋るこの瞬間が、堪らなく幸せ!

「…どうして、私がなまえを嫌いになるなんて思うんですか?」
「……だっ、て、みんな…みんな、そう言ってくれたのに…っ」

ぽろぽろ泣きながら、なまえが顔を上げる。涙に濡れた瞳が映すのも、私だけ。

「ミナちゃん、も」

―だって、なまえと仲良くするから。

「アキちゃん、も…」

―だって。私となまえを、引き離そうとするから。

「……みんな、離れていっちゃったの…!」

―邪魔なんてさせない。なまえは、私だけのものなんだから。他の人との縁なんて、私がみいんな切ってあげる!それで、代わりに私に繋いであげるの!
もう何人分繋いだかな、きっともう一生離れないくらい強くなってるはずですよ?

知らず、口元に笑みが浮かぶ。柔らかな髪に指を通して、なまえの頭をゆっくり撫でる。

「心配しないで下さいね。私がずうっと、そばに居てあげますから!」
「…ひっ、く…甘楽ちゃん、甘楽ちゃん、好き、すき…っ!」
「私も大好きです、なまえ…」

――私達はきっと、世界一、幸せ。


ユートピア


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