小説 | ナノ
※学生のアレ
「キッド先輩」
廊下を歩いていると背後から声が掛かった。誰だか直ぐに分かってしまうあたり俺は相当にヤバい。その位頻繁にアイツらと関わっていると、そう考えただけで鳥肌モンだ。
「キッド先輩」
最後通告とばかりに、背後の声が鋭さを増す。正直振り返りたくはないが、あまり長引かせるのも事だ。まだコイツだけならば、俺に害は無い。
「……なんだ、なまえ」
「お願いがあります」
振り返ったそこにいたのはやはりなまえだった。あの変態野郎に付きまとわれている哀れな女。手には制汗スプレー。それって常に持ち歩くモンなのか?
「お願いだァ? どうせロクな」
「トラファルガー先輩を埋めてきて下さい」
ほら見ろ。ていうか人の話聞きやがれ。
苛立たしげな口調。苦労してんのは分かる、分かるが――
「俺に振るな」
「あんな殺しても死なないような人にトドメを刺せるのは先輩しかいません」
「俺がやったって死なねェよ!」
「毎日机の中の不幸の手紙が増えていくんですよ。何とかして下さい」
「そりゃあおぞましいな」
奴がやりそうだ。いや、もうやってんのか。日増しに増えるラブレターもとい不幸の手紙。国家が奴を野放しにしているのが不思議でならない。
「こんなこと先輩にしか頼めないんです」
「誰にも頼んじゃいけねぇ類だろ」
「見つけたぜ、なまえ」
最高に不快な声が聞こえた。なまえの後ろに立ったトラファルガーもとい変態が、親しげに肩に手を回そうとしている。なまえはその手を器用に避けて、制汗スプレーを奴の目に吹き付け、「…………………ッッッ!!」奴は声を上げずに悶絶した。遠巻きに俺たちを眺めていた生徒から、おお、と感嘆の声が上がる。こんな状況下でも情けない悲鳴を上げなかったトラファルガーへの賛美。
「…………フッ、…俺はそんななまえも好きだぜ」
二分ほど悶えてから立ち上がった奴の目からはボロボロと涙が流れている。化物かよ。
「テメエな…いい加減にしやがれ。俺を巻き込むな」
「いい加減にしやがれ…?ンなもんこっちの台詞だ!いい加減にしやがれユースタス屋ァ!」
「何でだ!」
「先輩にしか頼めないとか言われやがって…!何故だなまえッ…何故こんな男を頼る!」
涙を流しながら激昂するトラファルガーに引かない奴がいたら褒め称えようと思う。気持ち悪いとはこの事だ。
制汗スプレーを構えたままのなまえが言う。
「じゃあ先輩にお願いがあります。先輩にしか頼めないことが」
「本当か…!?何だなまえ!」
「死んで下さい」
「お前を残して死ねるか!」
「死ねばいいのに」
「………………………ッッ!!」
スプレー噴射。シトラスの香り。悶えるトラファルガーを見ていると頭痛がする。
―――いっそ埋めちまったらいいのか?
こんなことを考えるなんて、相当疲れていると思った。
キッド先輩の災難