小説 | ナノ
※携帯電話擬人化
新しい携帯を手に入れた。
「へえー?ドタチン携帯新しくしたんだ、可愛いねえ!」
「クールな娘っすねー」
「…おいお前ら、あんまり弄るなよ」
ワゴンの後部座席に正座する、真っ黒な服の少女。ダークブルーの瞳が輝く。
興味津々な狩沢と遊馬崎を門田がたしなめた。放っておけば何をするか分からない。
門田の声に反応してか、少女が口を開いた。
キュイン、機械音を立て首が助手席を向く。
「キョウヘイ。安心しろ、個人情報は渡さない」
「そういうことじゃねえよなまえ」
「では何だ」
「好き勝手に装飾されるかもしれないってことだ」
「こういうことか」
「は?……っておい、狩沢…」
「どうゆまっち、私の腕前!」
「すげーっす狩沢さん!これぞ萌えっす!」
忠告したにも関わらず、狩沢と遊馬崎はなまえの黒髪で遊び始めていた。前髪を額で括った、いわゆるちょんまげ。それに腕前が関係あるのか、門田は疑問に思う。着眼点がずれている。
括られた前髪を揺らし、なまえが少し首を傾げた。キュイン。
「これは何だ、カリサワ」
「気に入った?気に入った?」
「これが最近の流行りか」
「うん、そう!」
「嘘つくんじゃねえ狩沢」
「いいじゃないすか門田さん。クールな女の子にちょんまげ!俺の中の何かをくすぐる魅力があるっす!萌え!」
「モエ」
「萌えー!」
「萌えー!」
もうええ。
などと思い浮かべて、門田は死にたくなった。大きく溜め息を吐き額に手をやる門田を見て、運転席の渡草が笑う。
「賑やかだなあ」
「……すまん」
「いい、いい。可愛いじゃん、な?おーい狩沢、次ツインテールなー」
「がってーん!」
「……………」
「キョウヘイ」
裏切られた気分で無言になった門田に、なまえの声が掛かった。見事にツインテールに結われた髪。狩沢が自慢気に微笑んでいる。
輝くダークブルー。
「キョウヘイは、どれが好きだ」
「―――…」
「私を操作出来るのはキョウヘイだけだ。一番は、キョウヘイだ」
「っ…おま、そういうこと」
「どれがいい」
「………………元のままがいい」
「分かった」
キュイン。なまえが頷く。
門田が、ニヤニヤ笑う三人の視線から照れて赤くなった頬を隠すのは、どうやら不可能なようだ。
「聞いたゆまっち?ドタチンだけだって!」
「しっかり聞いたっすよ!」
「やめろ…!」