小説 | ナノ
「い、いざやさんのばか!変質者!」
「あはははは。よく似合ってる」
「うー…!」
ソファの端で丸くなったわたしは、多分傍目から見ても可笑しいんだろう。臨也さんに笑われたって、なにも返せない。
よく似合ってる、って言われたって嬉しくないもん!
お洋服とか、髪型とか、そういうものを褒めてくれた言葉だったら、わたしだって嬉しかったのに。
「こ、これ、はやく取って…!」
「い・や。っていうか、引っ張ったら痛いでしょ?ほら」
「ひ…!」
ぐっと引っ張られるわたしの耳―わたしの、というか、犬のそれ。
ご丁寧に尻尾まで、臨也さんが盛った妙な「お薬」のせいで生えてきてしまった。
そんなばかな、とは思ったけれど、現にあるのだから信じるしかない。
「いた…いたい…!やだっ!」
「ね?痛いでしょ?」
「ばかっ!…これじゃ、外に出られないじゃないですか!」
「出なきゃいいよ」
「へ…」
「俺が飼ってあげる。あ、首輪あるよ。付ける?」
「…!臨也さんの、サディスト!へんたい、っきゃん!」
「あれえ…?飼い主に向かってそんな口のきき方するのかなあ、この犬は」
「あ、ぁ……!」
尻尾の根本をぎゅうぎゅう握られて力が抜ける。ニヤニヤ笑いながら、臨也さん。薬盛ったの、そっちなのに!飼われるなんて言ってないのに!言い返そうとすると絶妙なタイミングで握られる。
やだ、やだ!びりびりって、腰、が、痺れ、
「―――ゃ、やうぅ…っ!」
「あはは!震えちゃって気持ちいいの?耳だってこんなにへたってるよ」
「〜〜〜…きゃ、う!」
「あ、鳴いた」
ぱっと手を放された時にはもう息も絶え絶え、恥ずかしいし悔しいしで声も出ない。
そんなわたしを見て臨也さんが笑う。狐みたい。
「俺がご主人様。分かった、なまえ?」
わたしには、鳴いて答えるしか道は無いようです。
忠犬候補