小説 | ナノ



門田京平が部屋の扉を開けるのと、毛布の塊が抱きついて来るのはほぼ同時だった。


「うお、っと…なまえ?」
「か、かどたさ、門田さん…っ!」


切羽詰まった様子でなまえが叫んだ。毛布を頭から被っているため表情は見えない。

「…どうした?何があった?」
「ひ、っく…どうしよう、び、病気、かも、しれな…」
「病気…!?」

門田の顔色が変わる。泣いているなまえをとりあえずベッドへ座らせる。毛布を取ろうとすると、白い腕が門田の手を掴んだ。

「…なまえ?」
「ふえ、と、取らないで…っ」
「馬鹿、何言ってんだ…!見なきゃ、どのくらい悪いのか分からないだろ」
「やだ、やっ…だめぇっ…!」
「―――っ………な…」

ぴょこん。
取り去った毛布の下から唐突に現れた猫の耳に、門田は絶句する。
なまえがしゃくり上げた。ぽろぽろと涙を溢す。

「ひ、く…起きたら、生えてたの…!びょ、病気…っ?」
「………………………ちょっと待て、新羅に電話する」
「…ん…」

こくんとなまえが頷くのを見てから、門田は携帯電話のボタンを押した。…おい、尻尾もあるぞ。

知り合いの闇医者なら何か知っているはずだ。むしろこんな事態、奴が一枚噛んでいる可能性が非常に高い。きっちりコール三回で電話が繋がる。電話口で門田が唸った。

「………新羅。お前、何か知ってるな?」
『あれ?門田君、僕君に何かしたっけ?』
「惚けるな。なまえに何かしただろ」
『えぇー…?なに、分かんないなあ…なまえちゃん、どうしたの?』
「……猫…の、耳と尻尾が、生えた」
『………………ああー!うん、作った作ったそんなの!ん?でもそれって、臨也が買ってったような…』
「臨也が?…まあいいか、どうすれば治る?」
『うん、分からない!まあ多分、一週間もあれば治るんじゃない?多分ね多分。恐らく』
「そんな物を売るな!」
『いやあ…今思えば惜しいことしたなあ。セルティに使えば良かっ――うわあセルティ!?ごめんごめんごめんなさいあ痛たたたたた―――』
「………………」


悲痛な声で電話が切られた。門田は沈黙する。黒バイクに使うだと、あいつ首無いじゃねえか。
結局、分かったことは一つだけ。臨也が絡んでいることだけだ。あの陽気な声を信じれば、一週間以内に治るかもしれないというのも分かったうちに入るだろうか。
間違っても信じたりしない。

「…悪い、いつ治るか分からないらしい」
「そんなっ……ど、どうしよう…!」
「それよりなまえ。臨也からなにか貰って、食ったり飲んだりしたか?」
「……?あ、飴…」
「飴…か。多分それだな、原因」
「ふえっ…!?あれ、が…?」
「変な病気じゃ無いが…いいか、今後一切、臨也がくれたモンに口を」

電話が鳴った。通話口からまたあの陽気な声が聞こえる。殴ってやりたい。


『あーもしもし?門田君?』
「何だ。治す方法でもあったのか?」
『嫌だなあそんなの僕が分かるわけないじゃないか』
「分かった。切るぞ」
『うんまあ切ってもいいけど。なまえちゃんさ、猫に近付けない方がいいと思う』
「…どういうことだ?」
『念のためにね。ほら今、猫って発情期だろ?悪い影響でもあるとマズいんじゃないかと思って。ん、いや…門田君にとってはオイシイのかな?はい頑張って』
「は…………おいちょっと待て、新羅!」


切れた。なまえが門田の剣幕に目を丸くしている。細い肩をがっしり掴む。

「…なまえ。臨也と猫に近寄るな」
「…っ?ね、猫?」
「ああ、絶対な。治るまではここにいろ。分かったか?」

なまえが頷くと、頭の猫耳がへにゃっと垂れた。今更ながら、意識しないようにしていたがこれはマズイ。非常に。

――俺がキツイ、な。



門田の理性が試される一週間が、始まろうとしている。



にゃーお!
(あ、猫の鳴き声…)
(!!!)


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