「私ね、綺麗なものが好きなんです」
シンドリアに来て何度目の夜のことだったか。
あなたは唐突にそういった。
確か、星の綺麗な夜だったと思う。
その日は丁度、アラジン達が早く寝た。
俺はいつも通り、なかなか寝付けなくて、中庭の木の根元で一人空を見上げていた。
その時俺の気持ちはとても沈んでいて、ただただ星になってしまったカシムの面影を探していた。
空はどこまでも暗く、ぼんやりと眺めていたのもあったのだが、そうなくとも彼は気配がない。
暗闇から唐突に聞こえた声に、内容よりも先に、声の主が誰かということを探してしまい、涙声で問うたのだがその答えは返ってくることがなかった。
ただ、その代わりに背後で草が擦れる音だけがして、月明かりによってその答えが見つかった。
ジャーファルさんは闇に溶け込むように立っていた。
銀色の髪はお月様のようなのに、なぜかどこまでも暗い闇のように見えた。
「綺麗なもの……? ああ、星ですか。綺麗ですよね」
冷静になってみて、先ほどの言葉を思い出す。
ジャーファルさんって意外とロマンチストなんだなあ。
そう思いながら特に会話を続ける必要もなかったので、再び星空へと目を向けた。
けれど、そこで終わると思っていた会話は意外に続くことになった。
「確かに星も綺麗ですが、私はもっと綺麗なものを知っているんです」
「星よりも綺麗なものですか?」
続く会話に問いかけると、彼は少しもったいぶって返答した。
「ええ、星よりも、どんな宝石よりも綺麗です。……好きなんですよ、綺麗なものが」
真っ暗な瞳にいくつもの光が映り込んで、その瞳を見つめながら話を聞く。
ジャーファルさんも、俺が聞き役に徹したことを確認してから、
「はじめの頃は、そこら辺に落ちている小石とか。とりあえず綺麗なものは手に入れたかったんです。幸い宝石はシンがたくさん持っていたので、集めたのはガラスの破片とか、小さな花とかなんですけどね。けれどね、私が集めたどんな綺麗なものよりも心惹かれるものを見つけてしまいまして」
小さく笑ったその顔は、いつも見る政務官というよりも、もっとプライベートな顔で。
笑いながら近寄ってくる彼は、どこか怒っているように見えた。
気づいた時には、彼の瞳の星が眼前に広がっていた。
「君の目がね、とっても綺麗なものだなって。そう思ってしまうと、どうしても手に入れたくなってしまうんですよ。けれど君は死んでしまった友人しか見ていないじゃないですか」
歪められた笑顔が、怖かった。
その時丁度月に雲がかかってしまい、彼と闇の境界線が危うくなった。
強く腕を掴まれてしまっては、ジャーファルさんの手から逃れることができなくなった。
「ちょ、なんですか!やめてください!」
「やだなあ。そんなこと言わないでくださいよ。綺麗ですよ、アリババ君」
見かけによらず力が強いんだなあ、ジャーファルさん。
腕がギリギリと締め付けられて痛い。
叫んでみても一向に放す気配はなかった。
一方的に話が進んでいく。
ああ、だめだこれ。全く話聞いてねえよこの人。やべえ、泣きそう。
痛みからか恐怖からか、冷たいものが頬を伝った。
それを彼は拭い取るようにしたあと、今まで見たことがないくらい綺麗に、そして恐ろしく妖艶に笑った。
「だったらね、無理矢理向かせればいいかなって。そうしたらずっとその瞳は私のものですね」
彼の瞳の奥で俺が慌てふためく顔が見えた。
お友達が綺麗を題材に書いてたのを見て、「いいなこういうの」と思ったのに、キャラが違うとどんどん危うい方向に。
このまま行くと、ジャーファルさんが法に引っかかるまで滅茶苦茶やるのでやめます。