32.


ハァ

明日も朝早くから練習があるというのに寝られない。

それもこれも夕飯の時の涼風とのせいだ。


もともとは自分と両親が悪いのだけど。


涼風の言った一言一言がリピートされて頭の中でぐるぐる回っている。

これじゃあ当分寝られそうにないな……。


笠松先輩達にエールはもらったけど、もらったところでどうにもならない。


涼風に言われて家の中を思い出してみようとしたが全然思いだせなかった位、俺は自宅を当たり前のものと考えていたし両親を鬱陶しいとさえ思っていた。

そんな俺を見て涼風はどう感じていたんだろう。


家の中ですら厚化粧の壁を崩さないで過ごして(あの言い方からしてむしろ家の方が壁を作っていたかったことだろう)休まる場所なん何処にもなかったはずだ。

だから外泊ばかりしていたのだ。

それなのに自分達は涼風を“黄瀬家の恥晒し”と呼び、………ここまで考えてずきりと胸が痛くなった。



涼風を一番傷付けて生きてきたのは紛れもなく自分だ。

自分と双子だったばっかりに。


涼風は頭のよくて運動も出来た。
それは俺自身知らなかった。


そんな涼風が褒められないでここまで生きてきたのは黄瀬家に生まれてしまったからだ。

他の家に生まれてきたらここまで辛い思いなんてしなかったのに。



それでも、俺が。

俺が気付いてあげていて、俺だけでも味方で、側に居てあげていれば。


…………全部今更だよなぁ。


これじゃあいつまで経っても“キセキの世代の下っ端”“真似っこ黄瀬”のままだ。


とにかくまだ整理付いてないし……明日会いたくないなぁ。





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