気の利いたことも言えず、何を言えば良いかもわからず…
俺は黙って布団をかけ直しさくらの頭を撫でた。

さくらはまた背を向け、再度うずくまった。

悪い、
ごめん、
悪かった、
すまない 、
ごめんなさい、
すみません、と俺は何を謝るつもりなんだろう…。

朝、目が覚めると
隣にあるはずの体温が無い。部屋を見渡せば昨夜脱ぎ散らかした俺の服だけが
ソファにまとめられていた。

「さくらー、…!」

さくらの服が見当たらず、本人も居ない
俺はつい聞こえるはずもないだろう名前を呟きながら慌てて、自分の服を着ようと急いだ。
こんな別れを望んで夜を明かした訳ではない。

「…………何よ。置いて行く気………。」

「居たのかよ…」

やっと下半身を着込んだ頃、身支度を終えたさくらが脱衣所から出て来た。

「あんたの車で来たんじゃない…。」

「いや…、先帰られたかと思って追い掛けようと…」

昨夜は、駅に車を置いて歩いて店をハシゴして来たわけだが運転手が酔っ払っているようじゃさくらは最初からこうなることに気がついていたのかもしれない
帰れはしないと…
俺はシワになったワイシャツに袖を通しながら
さくらの顔を見た。

昨夜見せた崩れたメイクとは違い、唇の色がはっきりとしている

「…大丈夫か?」

「何が」

身体は…、と言いかけてやめた。
初めてだったから 、という理由でしか俺はさくらの心配を出来ないように感じて 何も言えなくなった。

「まだ酔ってるの?」

「いや…。大丈夫だ」

「ほら、髪結ってあげる」

とさくらは女がよく持ち歩いているコームを持って俺の隣に並んだ。

「ああ、悪いな」

こんなことは特別でもなかったし
遊び過ぎて夜が明けたなんてことは何度もあった。

器用に俺の髪を細い櫛ですき、いつもと同じように束ねた。
微かに俺の首に触れる指はこんなに細かっただろうか?

「いいよ」

「ああ、どうもな。もう出れるか」

「うん」

時間もそこそこだったので俺達は部屋を出ることにした。
これから駅に向かい、車でさくらの家に送り届けること

俺は今後、どう付き合っていきたいのだろう。

真面目になるのが何故か照れ臭く、
さくらを信頼もしないで身体だけ奪い取ってしまったが

間違いなく、今までの俺達は両想いだったと思う。
けれど、あいつだって同じだ。
俺のことを拒否をすれば嫌う、程度の男でしか見ていなかった。
「…俺のこと、まだ好きか?」

「何言ってんの?どうしたの…」

「嫌われたくなかったんだろ、俺に」

「…そんな」

先程までいつも通りの顔を見せていたさくらの表情が急に暗くなった。
跳ねがちだった強気の眉は下がり
丁寧にカールされた睫毛のマスカラがうっすらと滲んでいた。

「馬鹿じゃないの」

「知ってる」

「もう、良いから帰ろう」

「…。」

今度こそ 俺達はホテルを出て、駅に向かった。
夜とはがらりと変わる街並みに変に不安を覚えた。

「ほら、こっち…」

建物が多過ぎて昨日の道のりがいまいち理解出来ていないさくらの手を掴み
駅の方向に足を踏み出した。

部屋での最後のやりとりを思うと 振りほどかれるだろう、と思っていたのに
俺と違って冷えた手が
強く握り返してくれた。

昨日とは 全く違う背景に
昨夜から変わることが出来なかった俺達の関係、

家に着いてしまえば何もかも終わる気がした。


その身体は、
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