「銀さん、私を買って」

「お前にそんな価値はない」
「身体も好きにして良いから」

「いらん」

最近のさくらはおかしい。
頭を打ったのか、何かに取り憑かれたのか、
誰かがさくらに成り済ましているのかというほどにおかしかった。

最初は酔った勢いで、女にしてくれ、だの抱いて欲しいだの大騒ぎして
今じゃ、真顔でこんなことばかり話している。

「じゃあ、私が銀さんを買わせて。
銀さんが欲しいの」

「十万足らずじゃ小遣いにもなんねぇぞ」

「えー…。ていうか、女っ気ないならただで相手してくれたって良いじゃない。」

と、だらし無くヒールの高い靴を脱ぎ散らかし、
淫らに捲くられたスカートから覗いた脚で俺の股を割った。

「俺はロリコンじゃない。
あと、その足技やめろ」

「え?寝技が良いって??」

頭と耳、どっちが狂っているんだろうか。
至近距離で向かいあった
椅子の上でお互いの脚だけが濃厚に絡み合い、
会話とは正反対に俺の下半身を熱くさせた。


「夜の相手なら森田に頼め。良い女、探してたぞ」

「銀さんにとっても"良い女"ってことかしら?」

外見だけなら満点だ。
むしろ、こいつの多々、阿呆な部分を知る前までは
あの時に喜んでベッドに連れ込んでいたかもしれない。

今のこいつに、「見た目は良い」と言ってやれば
絶対に脱いでくるだろう。
「ガキは嫌いなんだよ」

「森田と変わんないわよ。」
調度、倍に歳が離れているのに対等に見れる訳がない。
それは森田も同じ

「銀さんには性欲ないの?
まさか枯れてるとか 」

「いい加減にしないと怒るぞ。」

「怒ってないでしょ」

「これから怒るか、って言ってるんだ」

「怒られたいです、そして嬲ってよ、」


「お前なんかに勃つか」

全く説得力のない下半身で俺はさくらとの足の攻防を続けていた。


「これで言われても…」

嬉しそうに局部を狙って攻撃をしてくるさくらがどうにも腹立たしく
持っていた煙草の火を脚に押し付けた。

「熱っ!!!!」


「父親みたいなのに抱かれたいなんて悪趣味だな」

「まだ気にしてんの」

「……………。」

「お父さんよりカッコイイよ」


見た目だけなら満点だ。
気の強い性格も嫌いじゃない。

お互いに家庭を作るつもりで寄り添った訳でもなく、この先どうなろうと歳の差など気にすることなど無いと思っていた、が
どうやら俺は案外脆かったらしい。

酔い潰れたさくらを背負った時、「お父さん、お父さん」 と髪を引っ張られた時から二人きりになるのが嫌で、
森田と三人になると実際保護者になってしまっていることに気がついてからだ。


「最近変だぞ」

「銀さんも変だよ」

確かに、先に変になったのは俺だ。
わざわざ避けているのに俺よりも変になってさくらは近寄って来ている。


「そろそろ帰れ、頼むから」
「この責任取ってよ」
と、先程俺が押し付けた火の後を見せ付けるように
擦り寄せてきた。

「いや!痛いってば!!!!」


赤くなったソコを摩ると、さくらは押し付けた時よりも酷く顔を歪めた。
「病院行きたいのか」

「なわけないでしょ」

余程痛く、辛抱出来なかったのか 執拗に俺に絡み付いていた脚はさくらの場所に戻って行った。

「これくらいで負けてちゃ、俺の女には出来ないな」

「どエス!!!」

「ああ、そうだ」


「もう今日は帰る、足痛いし、銀さん機嫌悪いし」

さくらは靴を履き、乱れたスカートを直しながら立ち上がった。

「森田の部屋でも行くのか?」

「行かないわよ!
ていうかタイプじゃないの!」

「俺のそっくりさんでも探して来いよ」

「顔じゃ駄目なの!!」
と言い残しさくらは部屋を出て行った。


森田の若さでも俺の顔でも無く、俺の何が欲しいのだろう。


俺自身がその何かに気が付くまで
さくらに触れる自信が無い。


明日も酒を持って俺の部屋に訪れるのだろうか

ゴトゴト…とテーブルに置いた携帯電話が着信を知らせる。
開くと「おやすみ」、と大量のハートの絵文字で飾られたメールが来ていた。

なんとなく明日も会えるのだろう、とホッとする自分に気が付き今夜も頭を抱えることになりそうだ。

俺の悩みを解消するものは戻らない若さでもある程度手に入れている大金でもなく
なんだと言うのだろう。

明日も同じネタで悩まないように今日とは違う話題を考えなくては、
と新しく煙草に火を着けた。



その花には触れない
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