「あ、ごめん。電話出てくる」

と、振動音が漏れる携帯を握りしめ彼女は俺から離れた台所まで移動した。


誰だよ…

別に今の俺達は"お取り込み中"って奴でもなく、だらだらと並んで「暇だ」、なんて言い合っていた。

が、二人の間に割り込まれるとなると退屈も糞もない。


確かに俺達は暇だったが、少なくとも俺はつまらないとは思っていなかった。

さくらが電話に出てからまだ5分も経っていないのにすごく寂しく感じた。

「さくら…。」

さくらとは反対の壁に向かって呟いた。

どうやらまだ話し中のようで、窓にうっすらと映るさくらが何やら手で合図をしていた。

もう少し……、か?






「カイジー、ごめんね」

「ん?ああ、悪いな。声かけちまって」

「いや、いいよ」

「誰からだ…?」

聞かないほうが良いのか?
こういうのって…
仕事とかってことも有り得るから出るな、なんてのも簡単に言えないし……


「お母さん。
今日は早く帰って来なさいって」

今日は、か
俺は駄目だ。いつも俺のバイトの都合に合わせてはさくらに夜遅くまでいろいろと付き合わせてる
主に俺の部屋だけど…

「ああ、いつも悪いな…。
そろそろ帰るのか?」


「いや、まだ大丈夫だけど」、とさくらが少し照れた表情で 俺の腿に手を乗せ、今日はどうするの?
と聞いてきた。


今日は…、出来るなら今日は6時までには家に帰らせたい。
俺より3つ下の十代の彼女にデートの度にほぼ真夜中に帰らせるのが(送ってはいるが)どうかしてた。

あと3時間で、って言っても匂いなんか残して母親の元に帰すのも…、
ってなんで俺はこうなんだ。
しかし、残念ながら俺には金も行く場所もない

「そうだな…」

と、俺はさくらの手に手を重ね、軽くキスをした。

「ねぇ、もう一回」

嬉しい、
本当に嬉しい


あくまでも今日は"軽く"

さくらの要望に応え再び唇を落とした。


「最近、煙草吸わないね」

「…さくらが居る時は吸わない」


さくらにはなんとなく煙草を覚えて欲しくなかった。 
その唇は甘いままで居てほしい。

「…?どうして?煙草、平気だけど」

「服やバッグに匂い着いたら嫌だろ…?」

と、背中に腕を回し耳元で囁いた。


「別に良いのに、ありがとう」
そう言って、俺の回した腕に応えてさくらは俺を抱き返してくれた

鼻を首に擦り寄せれば、気持ち良いシャンプーの匂いがする


やばい、今日は止まりそうにないかも



「さくら」 

「なぁに?」

と顔を上げた。








「そろそろ帰るか?」


「えっ?なんで?まだ4時前だよ?」


「いいから、送ってく」

これ以上ムードに流される訳にもいかない
さくらだって、俺の下半身から何かぶつかってるのに気がついてるはずだ。

「ねぇ。なんでなんで!来週まで会えないのに!」

「悪い、今日はやばい。俺の部屋じゃ我慢出来ねぇ」

と恐らく、真っ赤になっているであろう顔を隠すため再度、強く抱きしめた。


「もう……」

「遠回りして二人で歩こう、な?5時過ぎくらいには着くくらいに…」


「家の前まで来てくれるの?」

いつもは曲がり角まで…
「ああ…」


「あ!!そうだ!お母さんに会ってく?」


「はっ……あ………っ………!!!!!!!!!!!!」
心の準備が!!!! 

「え…ごめん。冗談なんだけど、そんなに嫌だった…?」


「いや、びっくりしただけだ…。門前払い喰らったらどうしようとか…」

今までの行いを考えると有り得そうだから怖い

「そんなことしないよー」

とさくらは笑うけど

「じゃあ、そろそろ行くか。」

「うん」


俺達は玄関までの短い道程まで手を繋ぎ、
靴を履いて外に出た。


「どこ通ってく?」

「川んとこ通ってこうぜ、多分花咲いてるし」

「うん」


俺は家の鍵をポケットにしまい、
さっきよりも強くさくらの手を握りしめ、アパートの階段を降りた



好き過ぎる
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