「…ん」

ただ重ねるだけなのが物足りない。少しだけ唇を開いても銀さんはその先へ進んではくれなかった。

「あ…」

この空気をぶち壊すように、火にかけていたヤカンのお湯が沸騰しシュンシュンと鳴き出した。
熱くなった身体を少しでも離してしまうと二度と無いような気がするのだ。
毎日のように会えるからこそ、遠くなるものだってある。

「ったく…。ヤカンじゃなくて風呂の湯沸かした方が良かったんじゃねーの?」

と背中と下半身に充てていた手を離し、彼は立ち上がった。

「その気になってんなら今のうちにパンツ脱いで待ってろよ」

キッチンに向かっていく銀さんがこちらを見ることもなく「脱げ」という言葉に「その気」が冷め、私も立ち上がった。

「もう、いいや。シャワー浴びてもう寝る」

「なんだよ、俺のこれはどうすんだよ!テントぶち破るとこまで来てんだよ!」

「うちにゴム無いしどっちにしろ出来なかったの!」

「銀さんが手ぶらでくるわけねーだろ!財布に入ってるわ!コノヤロー!」

「このヤリチン!」

「ヤリマンが言うかよ、それ…。
仕方ねーからこのチンコが鎮まったら帰ぇる。シャワーでもなんでも浴びてこいよ」

「ふん」

自分でも何でこんなことでカッときてしまったのか、そもそもお湯を沸かしたことに激しく後悔している。
あのままだったら、流れでやった、くらいのお互いの言い訳ぐらいは出来たももの少し熱が冷めたところで自ら脱ぐことはプライドが許さなかった。
洗面所で皺になったスカートを脱ぎ捨て、糸をひいた下着を洗濯機へ放り込んだ。
彼を帰してから、もしくは朝浴びる予定だった為、準備のされていないバスルームは冷えきっていて私の身体の熱を冷ますのには好都合だった。
たぶん、シャワーを浴びても彼はこの部屋にいるのだろうから。


……

(やっぱりいた)

やることなんて一つしかない関係なのに、銀さんの存在は何故か落ち着く。

ベッドで寝られたら匂いが移る、明日も明後日も今日のことを思い出して私はやり場の無い熱を上げなければならないのだろうか。

「寝るなら帰ってよー」

グゥゥ、と布団の中には入っていないものの横になり返事の代わりに寝息を吐く。どうせ寝るのならど真ん中陣取ってくれれば良かったのに、あと一人寝れるくらいの幅を残していることが憎かった。

ほっておけば起きるだろう、私は布団なんかかけてやらないし、そんな格好していれば身体の痛みで嫌でも目が覚めるだろう。
そして彼も冷めるのだから大人しく帰るに決まっている。

そう、家に上げた時と同じように自分の行動に理由をつけて私は部屋の電気を消した。
石のように動かなくなった彼を起こさないように布団を引っ張り、潜り込む。
さっきの寸止めのせいか少しだけする汗の臭いが彼の元の匂いと混ざって私に過去の情事後を思い出させるには充分過ぎた。

「いや、お前そんなに馬鹿だったっけ?」

「……」

ベッドに身体を完全に沈めた瞬間、ばっと起き上がり私の身体に覆い被さった。

「ん…」

舌を割り込むように唇を押し付け、片手で身体と身体の間にある布団を引き抜くようにして端へ押し退けた。




忘れたんじゃない、ちょっと隠していただけ
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