それは夜も更けて、子の刻もちょうど過ぎた程のことである。

目が覚めた。
と同時に、目を開けると知らない顔をした彼がいた。さらさらの黒髪で肩ほどまでしかなく、切れ長の瞳を持つ彼に気付かれぬよう、わたしは枕元へと手を潜ませる。

「なまえ。」

襟元へと伸ばされた色白の指先が肌に辿り着くその時、敷き布団から床へとわたしは転がる。這い出る。そして枕元から抜いた、その苦無の切っ先を彼に、向ける。そう、したかった。

「……しゃもじ…だと…?」
「っブファアッ……!」

…説明しよう。
わたしは冷たい床の上に立ち膝ながらしゃもじをつきだし、その向かいには夜這い、を仕掛けてきたはずであろう男が布団の上でひいひい笑い死んでいる。
……。
とりあえずしゃもじで思いっきり彼をすっぱ叩いておく。三郎はそれにまたツボって布団に沈んでいた。ああやだやだ。




「それで何?」
「用がなくては来ちゃ悪いか?」
「うん。」
「まあ、知ってた。」
相変わらず可愛げのない、

そう言うお前はわたしの部屋に一体何しに来たの。本当に。何か言うことあるんじゃない?
さっきからわたしの着物なんか見て楽しい?というか勝手に人のたんす漁ってんじゃねえよ、今更だけど。

「というか、何、その顔?」
「いつもと違う顔でされたらなまえはどんな反応してくれるかと思って。」
「知ってたけど悪趣味だな、おい。」
「そんな誉めても何も出ないぞ?」
「貶してんだよ、この変態。」

ニヤニヤしながら、部屋の物色を続ける三郎に苛ついてしゃもじをその背中に力いっぱいに投げたら、左手に器用に受け止められて更に腹が立った。

「大体してわたしの苦無はすり替えて、どこにやったの。」
「そのしゃもじと交換でどうだ?」
「しゃもじ突っ込まれたいの?」
「どっどこに!?というかナニそれ怖っ!!」
恋仲の奴に向ける言葉じゃないぞそれ…。

そう一言溢して、ぶるっと身震いしてみせる三郎に溜め息を吐くと、ついでに苦無も恋仲相手に向けるものじゃない、という言葉と共にわたしの苦無が渡された。…ああ刺してやりたい。
とんだお出迎えだったって?大体して三郎があんなことするから悪いんでしょ…。

「三郎。」
「なんだ。」

未だわたしのたんすを見ている彼の背中が憎たらしい。

「いつ帰ってきたの。」
「…昨日、実習が終わったんだ。」
「……いつ、帰ってきたの。」

我ながら情けない、とは思っていても。どうしても。
思わず唇を噛んで、三郎の広い背中を見つめた。

「……今日。」
つい先ほど着いたばかりだ。

たんすを閉じて、彼は眉をひそめながら振り返った、気がした。
わたしは俯いてしまったから、彼の顔は見えなかったけれど。

……だって、まだどこかの城の兵士の顔のままなんでしょう?どうせ。

「なまえ。」
「なに。」

返事が随分と小声になってしまった、と顔をあげれば遮られた視界に青が沁みた。

「当たり前のことを、私に言わせるなよ?」
「…知らない。」
「……まったく。」

今度は三郎がはぁ、と溜め息を吐いて、わたしはそのまま彼の胸にぐりぐりと顔を埋めた。

「三郎が言ってくれないとわからないよ。」
「わかってるくせに。」
「うん。」
「うん、じゃない。」
「…三郎、言って。」

ぎゅうぎゅうと包みこむようにと言ったよりは、些か強すぎるほどに抱きしめてくれたその体を離して、わたしの両の肩に彼のあたたかい手が置かれる。そして少し躊躇う。
でも、いつの間にか戻した、いつもの彼の友人から借りた顔でぶっきらぼうに、それでいて誠実そうに言葉を紡ぐ。

「…さっき、学園に着いてそのままここに来た。」
まあ、何だろうな。
……会いたかったよ。

真っ正面に据えられた視線はすぐに私の目から外されて、挙動不審気味に彼は目を泳がす。

「会いたかった?」
「……お前は私に何を言わせたいんだ…!」
「べっ別に!」
「っああ会いたかった!会いたかったとも!最初にな!」

やけくそになってそっぽを向きながら答える三郎をわたしは笑いながら、

「…うん、知ってた。」
「だろうな。」
「でも、今度はもっと早く言ってね?」
「はいはい、ああもう…悪かったよ。」

はぁ、ともう一度溜め息をついた彼に、優しくそっけなく口を吸われるのだ。



おかえり。



「そうだ、今度新しい着物でも買ってやろうか。」
「……変な食べ物でも食べてきちゃったわけ?」
「失礼な。どうせなら私好みの着物を着せて一緒に歩いてみたいだけさ。」
「絶対に着てやらないから!」
「さて、どうだか。」


まったく、可愛げのないのも困り者だが、可愛くて仕方ないのも困り者だな、と。






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そう顔をだらしないままに語った彼は同学年不特定多数の友から、リア充爆発させるぞ、ともみくちゃにされたらしい。

という後日談からの、
しまさんごめんなさああい!!ヽ(´Д`;)ノおそくなりましたああ三郎夢ですううう><
こんなのでよろしければお持ち帰りください・・・リクありがとうございました^^*随分とほったらかして本当にごめんなさい!大分前にお話していた六年生がでてるのは挫折したのでこちらになりました(笑)すみませっー(-ω-;)
(20120405)

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